02-07.ご主人様のお心遣い
「面目次第もございません……」
「ううん♪ お姉様が無事で良かったよ♪」
いやぁ~。お風呂で気絶しちゃった時はどうしようかと思ったよ~。今朝はすっかり元気になったみたいで何よりだ♪
「クー様。支度をお済ませください」
「は~い♪」
そろそろ学園行かなきゃね♪
「あっ! わたし!」
「お姉様は今日はお休みね♪ ゆっくり休んでて♪」
「い、いえ!」
「ダ~メ♪ 絶対ふくじゅー♪」
「えぇ!?」
「お返事は?」
「いや! でも!」
「従ってくれない? 私は主に相応しくない? うるうる」
「ギョギョギョいぃ!!」
誰が魚やねん。
「御意?」
「は、はい! 御意です! 御意!!」
「よろしい♪ ということでお休みね♪」
「で」
「ですがは無し。返事は『はい』か『イエス』か『御意』」
「実質一択!?」
「わかりましたか~?」
「は、はい!!」
「おっけ~♪ じゃそういうことで~♪」
いざ♪ 学園へ♪
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「本当に行っちゃった……」
ユキノさんも連れずに……お姫様が一人で……。
「慣れてください」
ユキノさんもそう言って仕事に戻っていった。
せめてわたしもと口にしかけたものの、今日は主が休みと言ったのだから休みですと、キッパリ断られてしまった。
代わりに屋敷の中は好きに見て回って良いそうだ。質問があれば誰に聞いても構わないとも言ってくださった。
……わたし試されてる? 自分で動けるタイプか見極めようとしてる? それとも主への忠誠を? このベッドから一歩も動かないことを求められてる?
……どっちが正解なんだろう。
……柴犬やボーダー・コリーのような自立タイプか。
……はたまた秋田犬やジャーマン・シェパードのような忠誠タイプか。
前世の社会では一般的に前者が重要視されてきた。
しかしここは中世ヨーロッパ風の異世界だ。雇用主はこの国のお姫様。どれだけフレンドリーに見えたって、上限関係については厳しいのかもしれない。
わたしは知らず知らずの内に失礼な態度を取ってしまうかも。そうなれば、きっとあの兄王子が黙ってはいまい。どこからか話を聞きつけて、始末しようと目論むかもしれない。
あの兄王子は相当なシスコンと見える。今もどこかで見張っているかもしれない。
……どうしてこうなるの。
折角異世界に転生したと思ったら、孤児院スタートだし。
莫大な魔力を授かったと思えば、不遇属性だし。
折角名門学園に入学しても、最下層扱いで虐げられるし。
美少女お姫様に仕えられたと思えば、兄はなんか怖いし。
わたしの転生人生、尽く上手くいかないなぁ……。
「はぁ……」
……いやいや。ダメだよ、わたし。ため息は幸せが逃げて行っちゃうから。
少し出歩こう。兄王子やお姫様本人がどう感じるかはともかく、あのメイドさんは間違いなく自分の判断で動けるタイプの人だ。なんとなくだけどそう感じるのだ。
なんならあのメイドさんをよくよく観察してラインを見極めるのも良い。もちろん積み重ねた信頼は違うから、より従順に、より自立的に、少しずつ調整していくとしよう。
「よし!」
そうと決まれば探検だ!
ここはお城ではないけれど、お姫様の暮らす豪邸だ。そんなの中々観る機会なんて訪れまい。いつリストラされても心残りの無いよう、しっかりと目に焼き付けておこう。
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「あ、ユキノさん」
「アイリス。その格好はなんですか」
「部屋にありました」
メイド服。ユキノさんともお揃いだ。
「今日は休みと仰せつかった筈です。その服は脱ぎなさい」
きびしー……。
「はい! 先輩!」
すぐに着替えに戻ろうと踵を返す。
「肩の力を抜いてください。クー様はお優しい方です。素直に好意を受け止めなさい」
「はい。畏まりました」
「遠慮は要りません。元々お持ちの服が場にそぐわぬと気にする必要もありません。部屋にある服はどれを着て頂いても構いません。十分なものを用意しました。今度は休日らしい格好を選びなさい」
「はい。先輩」
「良い子ですね。レオン王子殿下が斡旋してくださっただけのことはあるようです」
そんな恐れ多い。まだ「はいはい」言ってただけなのに。
「リラックスです。クー様は知りたい欲求を抑えてあなたをこの家に残しました。その思いやりに応えて差し上げてください。学園から戻り次第、質問責めにするでしょうから」
「はい。落ち着きます」
「よろしい。クー様を頼みましたよ」
「はい。ユキノ先輩」
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「たっだいま~♪」
「おかえりなさいませ。クー様」
「ただいま♪ ユキノ♪ 会いたかったぜ♪ ぎゅ~!!」
「お、おかえりなさいませ。クー様」
「あ♪ お姉様もいた♪ 出迎えご苦労♪ 今日はゆっくり休めたかな? 体調は大丈夫? 無理しちゃダメだぜ♪」
「はい。問題ありません」
「まだ硬いね~」
「そうですか?」
だいぶ緊張は抜けたと思うんだけど。
「敬語禁止♪ これは命令ダゾ♪」
流石にマズいんじゃ……。
ユキノさんに助けを求めるように視線を送ると、従うようにと頷かれてしまった。
「く、クー……ちゃん」
「っ!!」
わわっ!? 抱きつかれた!? 美少女に!?
「……えへへ~♪」
……あれ? ちょっと……泣いてる?
「お姉様♪」
「はい」
「そうじゃなくて~♪」
「……いいの?」
「呼んで♪」
「……クーちゃん」
「うん♪ うん♪ クーちゃんだよ♪ お姉様♪」
グリグリと額を私の胸に押し付ける。
その姿は親に甘える子供そのものだ。
……そういえば、クーちゃんの両親はどうしているのだろう。もちろん姫ということは、現在の国王陛下が父親なのだろう。なら母親は? どうしてクーちゃんは城から出てこんな大きなお屋敷に一人で住んでいるの?
ユキノさんや他のメイドさんたちはいるけど、母親の話は一度も耳にしていない。姿も見かけていない。挨拶しろとユキノさんが案内してくれることもなかった。
……これは聞かない方がいい事なのだろう。
今はまだ……。
けどいつかは……。




