表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虚空少女の風騙り  作者: こみやし
02.新入生編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/34

02-06.従者の心得


 クーフェリアはまだ知らない。



 レオン王子こそが真の「昼行灯」であることを。


 彼は重度のシスコンを患っている。不治の病だ。本人は決して認めないけれど。……可哀想に。



 彼は妹のため、入学前に学園の全てを調べ上げていた。もちろん在校生であるアイリスの正体についてもだ。


 これからクーフェリアが知るであろう真実も最初から全てを知っていたのだ。


 彼らのクラスメイトがクーフェリアに強い興味を示さなかった(ように見えた)のも、全てはレオン王子の仕込みが済んでいたからだ。



 クーフェリアは気付かない。


 彼女の想いを理解し尊重し、昼行灯計画を影から支え続ける者たちの思惑に。


 幼少期から守られ続けてきた彼女には気付けない。


 英雄王女の昼行灯計画が、いつの間にやら、そして密やかに、国家事業としてプロデュースされてきたという真実に。




----------------------




 あれが王子殿下……。初めてお会いした。救い主。



 事は一年程前から仕込まれていた。


 当時平民ながらに入学を許された「わたし」は、判別式で風属性の適正を言い渡され、絶望の淵に立たされていた。


 折角洗礼式で膨大な魔力を頂いたというのに、よりによっての風属性だ。平民のわたしだって知っている。大成は難しいとされ、授かると冷遇される魔術適正だ。


 周囲の期待も急転直下。単に今更放り出す程薄情じゃないというだけの理由で、入学が取り下げられる事もなかった。わたしにとってはむしろ取り消された方が幸せだったのに。



 ただでさえ立場の弱い平民だ。加えてこの地方では珍しい髪色に顔つき。トドメに風の適正。結果は火を見るよりも明らかだった。案の定わたしは虐げられた。


 他の生徒たち……王侯貴族に限らず、わたしと同じ、学園に通う数少ない平民たちまでもが虐める側に回ったのだ。


 あの頃は本当に地獄だった。幾度も逃げ出そうと考えた。けれどそんな自由は許されていなかった。平民には入学を断る権利すら存在しないくらいだもの。



 そこに救いの手を差し伸べてくれたのが殿下だった。


 正確には、その妹君であらせられ姫様を主とするなら、救いの手を差し伸べてやろうと持ちかけられたのだ。


 何故面識も無い年下の殿下が、わたしに目を付けたのかはわからない……いや。わからなかった。今日までは。



 ユキノさん。彼女はわたしと同じ地方の出身だ。


 彼女と風貌が似ているから、わたしは目を付けられたのだった。そしてわたしは今日初めてそれを理解した。



 王子殿下は何も教えてくれなかった。そもそも直接会った事もなかった。これまでのやり取りは全て人伝だった。


 ただあの日頷いてからは、パタリと虐めが止まっただけだった。それ以来音沙汰なし。学園に在籍し続けろと仰せつかっていたので、せめてもとわたしなりに努力は続けてきた。


 それがまさか一年生からやり直せだなんて言われるとは思いもしなかったけれど。


 なんとも人の悪い王子様だ。


 そもそもお側付きにして頂けるだなんて聞いてないし。主として忠誠を誓えと言われたからって、落ちこぼれの平民風情を側に侍らせるだなんて誰が考えるというのだろう。


 そういうのは先に言っておいてほしかった。こっちにだって心の準備というものがあるのだ。というかメイドの心得なんて皆無だ。この一年何やってきたんだ、なんて言われたらどうしよう。



 幸いお姫様の方はそういうタイプでもなさそうだけど。むしろ朗らかで親しみやすいお方だ。そして何よりも義理堅くお優しい。わたしなんかの事を「お姉様」なんて呼んで慕ってくれるのだ。


 これはもしかしたら一目惚れというやつかもしれない。


 事前に似顔絵を見せてもらった時には感じもしなかったのに、今はあの子の笑顔が瞼の裏に焼き付いて離れない。


 これからわたしはあのお方のために生きるのだ。平民の落ちこぼれには勿体ないお役目だ。むしろ本当に良いのだろうか。普通に考えたらあり得ないことだろうに。平民が近づいて良いお方では決してない筈だ。



 ……どんどんどんどん怖くなっていく。


 一人、従者用の湯船に浸かって目を瞑ってから、どれだけの時間が経ったことだろう。


 そろそろ上がらないと。名残惜しいけど。怖くて堪らないけれど。ここから出て仕事に戻らないとだ。


 折角巡ってきた在り得ない幸運をこんなことで台無しにするなんて愚かしいにも程がある。


 それにあのお姫様とも早く会いたい。怖がって縮こまっているだけだなんて勿体ない。一秒でも長くあのお方の屈託のない笑顔を目に焼き付けておきたい。


 そう思うのに身体が動かない。恐怖で強張っている。信じがたい現実に心が追いつかない。頭はこんなにも冷静だというのに。不思議なものだ。



「おっねぇ~さまぁ~~♪」


「っ!?」


「やった♪ まだ居たね♪ お背中流しに来たよ♪」


「でででででででんかぁ!?」


「あはは♪ 慌てすぎだよ♪ お姉様♪」


「こ、ここは! 従者用の!?」


「うん♪ 知ってる~♪ いつもユキノと入ってるもん♪」


「えぇ!?」


「そんなに驚くことかな? うちって私しかいないからさ。他皆侍従だからさ。わざわざ大きい方を沸かすの勿体ないんだよね。もちろん皆があっちでも良いって言うなら私もそれで構わないんだけどさ。けど皆遠慮しちゃうから。だから私もこっちで入ることにしてるの♪」


 えぇ……。



「あはは♪ 驚かせちゃってごめんね♪」


「い、いえ! 滅相もございません!」


「硬い硬い♪ リラックスリラックス♪」


 無茶言わないでぇ~~!?



「はい♪ 深呼吸♪」


 すぅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~……。



「ありゃ? お姉様……? 吐いて吐いて! お姉様!?」


 きゅ~~~……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ