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虚空少女の風騙り  作者: こみやし
02.新入生編

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02-04.違和感


「ありがとう♪ 親切なお姉様♪」



「おねっ!? って! 殿下! 礼など不要です! 早く教室へ!」


 確かに時間はギリギリだ。けどさ。



「ダメよ。あなたに恩を返さないと。ちょっとここで待っていらして」


「えぇ!?」


 私は教室に入って手早く伝言を頼み、先輩の下へと戻ってきた。



「さあ行きましょう♪」


 今度は先輩の手を取って歩き出す。



「ででででんかぁ!?」


 誰がデデデ殿下だ。カ◯ビィ君。



「さっきまで繋いでたじゃん」


「え?」


 あ、間違えた。


 一応お姫様だからね。昼行灯を演じるにしても、最低限文句を言われない振る舞いは心がけておかないとね。入学早々遅刻してる時点で今更な気もしなくはないけれど。


 あれだよあれ。自由というのは義務を果たすからこそ与えられるものなのだよ。素行が悪ければ制約も増える。自明の理だね♪


 そもそも昼行灯って、昼に灯す明かりみたいにぼんやりしていて目立たない人のことを指す言葉だからさ。素行が悪すぎて悪目立ちしちゃったら、それはもう昼行灯とは呼ばないのだよ。


 まあ。そもそもそれ言い出したら、「昼行灯」という言葉に「実は有能」なんて意味は含まれていないのだけれども。


 良いんだよ♪ 細けぇことは♪



「先ほどまで繋いでいらしたではありませんか。それもお姉様の方から」


「そそそそんな恐れ多い!!」


 だからって振り払ったらダメだよ~♪ それはそれで失礼にあたっちゃうからね~♪ クックック~♪


 さてさてどうするのかな~♪



「殿下! どうか教室へお戻りを!」


 おっと。そう来たか。


 逆に踏ん張って引っ張り始めちゃったぜ♪



「それではあなた様が叱られてしまうではありませんの」


「殿下の! 方! こそ!! 力強っ!?」


 ふっふっふ♪ 伊達に鍛えてないんだぜ♪



 ズルズルズル。未だ名すら知らぬ親切な先輩を引きずって上級生のクラスを目指す。


 ここまでの道中でなんとなく校舎内の配置は把握出来た。多分上級生のクラスはこの先にある筈だ。



「そろそろ無駄な抵抗はよしてくださいまし。お姉様」


「殿下ぁ~!」


「お姉様のお心遣いを無碍にしたことは謝罪いたしますわ」


 折角間に合うようにって急いでくれたのにね。ごめんね。


 それはありがとう。感謝してるよ。


 その上で私は先輩が助けてくれたことを伝えに行くよ。新年度早々に遅刻したなんて、先輩も困るでしょ。


 私の方は問題無いよ。伝言はしたし。元々チャランポランなお姫様だし。大丈夫大丈夫。



「もう今さら間に合いませんわ。お姉様」


「……はい」


 ふふふ♪ 観念してくれたぜい♪



「クーフェリアと申します」


「え? 存じています……」


「お姉様のお名前を伺っても?」


「っ!? 申し訳ございません!!」


「お聞かせ頂けませんか?」


「あっ!? やっ!? ではなく!!」


「ふふふ♪ 落ち着いてくださいまし♪」


「あや、アイリスです! アイリスと申します! 殿下!」


 今なんか別の名前言いかけなかった? あや?


 顔つき的にユキノと同郷っぽいんだよなぁ。


 偽名? 最近変えたばかりで馴染んでない?


 まいっか。後で調べてもらおう。



「アイリスお姉様♪ どうか家名もお聞かせ頂けますか?」


「ございません! 平民です!」


 だから王族の身体に勝手に触っちゃいけないとかは知らなかったのね。正確にはすぐに思い至る場所に知識が無かったのだろう。完全に知らないってわけでもなさそうだし。



「アイリスお姉様は何年生ですか?」


「二年です! 殿下!」


 なんだか大げさなくらい固くなっちゃった。


 あと声が大きい。もうホームルームは始まってるから廊下ではお静かに。



「あ! こちらです!」


 大丈夫? そんなガッチガチに緊張しちゃってたら新年度デビュー失敗しちゃわない?


 私が手を放せば元に戻るのかしら?




----------------------




 私は先輩のクラスの担任に事情を説明し、自分のクラスへと戻ってきた。


 先輩がまた私を送るために同行しようとするのを止めるのは大変だった。結局向こうの先生まで加勢し始めたから、説得は途中で諦めて逃げ出してきちゃったぜ。



 うちのクラスはうちのクラスで、お姫様の重役出勤には誰も興味が無いようだ。教師も含めて。


 先輩のクラスの人たちは、お姫様のサプライズ出演に皆驚いてくれてたのに。なんなんだろうこの温度差。




----------------------




 先生の話を聞いているうちに状況がわかってきた。


 私の所属するクラスは、一年生の中でもとりわけ優秀な生徒たちだけが集められる、特別クラスらしい。


 だからか、皆眼の前のことに真剣なのだ。不真面目な道楽姫様に構っている余裕なんてありはしないのだ。



 先輩のクラスはその逆っぽい。


 平民のアイリス先輩が在籍しているクラスだ。たぶんあっちが普通のクラスか、普通より下の扱いをされているクラスなのだろう。


 そもそも設備も全然違ったし。こっちの方が色々豪華だ。



 正直私的には先輩のクラスの方が居心地良さそうだった。


 けどこっちにはこっちの利点がある。もちろん設備の話じゃない。皆の関心が薄いということは、すなわち目立たないということだ。昼行灯ムーブには最適だ♪



 だからまあ。それは良いとして。


 あともう一つ気になるのは、昨日の件だ。


 校内に学園長の偽物なんて現れたのに、担任が私の心配をしている様子が無い。生徒たちに注意を促す様子もない。


 私が遅刻している間に話を済ませたのだろうか。或いは昨日のうちに伝わっているのだろうか。


 そもそも誰にも知らされていない。なんて可能性もある。むしろ可能性としてはこっちの方が高い。



 皆ユキノが同行すると思って心配してないのかな。


 けど私一人だよ?


 そう考えると従者を連れていないのはかえって目立つだろうか。……改めて考えるまでもなく目立つに決まってるよなぁ。お姫様だもんなぁ。けど誰も気にしてないんだよなぁ。


 なんだろう。この違和感。


 休み時間になったらお兄ちゃんに聞いてみよう。幸い同じクラスだし。唯一私の遅刻に顔をしかめるという反応を示してくれた優しいお兄ちゃん様だぜ♪ 絶対怒られるなぁ♪


 何故だかそれが待ち遠しい。

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