07-19.兄妹喧嘩
「たいへんたいへんたいへんたいへ~~~~んん!!!」
「なんだ騒々しい」
レオン殿下は朝早くから執務室の席について考え込んでいた。そもそも昨晩から一睡もしていない。ずっとここに座って悩み続けていた。わたしは知っている。実はティグリスがこっそり覗いていたから。
「これ! 殿下これ!」
「何故お前が当たり前のように俺の部屋へ入ってくる」
「いいからこれ! ほら!!」
わたしはレオン殿下の胡乱げな顔に紙を押し付ける。
「……『旅に出ます。探さないでください』」
「そうなんだよぉ! クーちゃんがそれだけ残して出てっちゃったの~! 殿下のせいで!!」
「……これは何の茶番だ」
「殿下のせいで!! 追い詰めすぎたんだよ! 逃げちゃったんだよ! あのクーちゃんが!!」
「……俺にどうしろと」
「早く追いかけて!! 探し出して!! お兄ちゃんでしょ!! 大切なんでしょ!」
「探索はお前の役目だろ」
「無理に決まってるでしょ! クーちゃんはわたしの力を知り尽くしてるもん! こんなの残していったんだから捕まる筈ないでしょ!!」
わたしの風魔術だってクーちゃんの空魔術には通じないんだから!
「お前が探せ。俺は忙しい」
「殿下!!」
「……クーフェリアの交際相手はお前だろうが」
「姉だって彼女だって兄妹喧嘩にまでは口出さないよ!!」
「こいつ……」
「もう! わたしに当たってる場合じゃないでしょ!!」
「……」
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よしよし。
殿下が動き出したね♪
『アヤメ』
どったん? イロイ?
『この作戦、我はどうかと思う』
余計に拗れるかな?
『たぶん』
けど荒療治は必要だと思うよ。
『荒療治っていうか、蛇足っていうか』
あの二人が素直に話せると思う?
『う~ん……』
ふふ♪ イロイも人間のことが随分わかってきたんだね♪
『見てきたからね。この三年間』
変な兄妹でしょ♪
『普通の兄妹じゃないかなぁ』
あはは♪ そうかも♪
『面白がってる?』
これも青春だね♪
『アヤメはクーちゃんの彼女だよ? わかってる?』
もちろん忘れたことなんて無いよ♪
『油断しすぎだと思う』
もしもなんて無いよ。
『それはそれで酷すぎると思う』
クーちゃんが甘えん坊なのは間違いないけどさ。殿下だって似たようなもんなんだよ。
『レオンが?』
うん。結局兄妹だからさ。どっちもどっちだと思うよ。殿下だって肝心な言葉を口にしてないんだから。真正面からぶつかってないのは殿下も同じなんだよ。だから何度フラレても割り切れないんだよ。そういう中途半端さが今に繋がったんだよ。ケジメを付けるべきなのはクーちゃんだけじゃないんだよ。お互い様なんだよ。今回の件は。
『……そっか』
そろそろ始まるね♪
『覗き見るのはやめてあげなよ。せめてさ』
あはは♪ イロイに言われるとは思わなかった♪
うん。なら今回はやめておくよ♪
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「旅に出たのではなかったのか」
「旅? 何の話?」
お兄ちゃんたら、突然現れて何を言ってるのかしら。
それにしても、よくここに私が居るってわかったわね。
お兄ちゃんは私の隣に立ち、城の尖塔のバルコニーから城下を見下ろした。
「……」
なによその表情。変な横顔。
「お兄ちゃん。伝えたいことがあるの」
「……なんだ」
「私やるわ。王様。自分で居場所を作ることにしたわ」
「……そうか」
「お兄ちゃんに支えてほしいの。お願いしてもいい?」
「……」
「もう私の隣には居たくない?」
「……いや」
「そう。よかった。なら宜しくね」
お兄ちゃんに向かって手を差し出した。
「……」
お兄ちゃんはこちらを見てもくれない。
「……旅か。それも良いやもしれんな」
「え?」
「悪いな。俺は決めたぞ。たった今」
「それって……」
「手は貸せん。今はまだ」
「……困るわ」
「知らん」
「なによ突然」
「俺は旅に出る。強くなって帰ってくる。お前を奪いに」
「……私は」
「知っている。わかっている。だが俺はお前が欲しい。諦めきれん。だから強くなる。力ずくで奪う。そう決めた」
「……無理よ。お兄ちゃんでは私に勝てないわ」
「待っているくらい言えんのか」
「ダメ。行かないで。側に居て。手伝って」
「断る!」
「行かせないわ!!」
「巫山戯るな!!」
「お兄ちゃん無しで王様なんて出来る筈無いじゃない!!」
「知らん!! やると言ったのはお前だ!!」
「それはお兄ちゃんが支えてくれるって言ったから!!」
「いつまでも甘えるな! だいたいなんだその呼び方は! 自分の立場を弁えろ! いったい幾つになったら成長するんだ!? 自覚するのだ!? 幼子ではないのだぞ!?」
「子どもみたいな我儘言ってるのはお兄ちゃんでしょ!? なによ! 私がやるって言ったらやっぱ辞めるだなんて言い出して!! それのどこが大人だって言うのよ!? お兄ちゃんだって人のこと言えないじゃない!!」
「うるさい! 俺には譲れないものがあるんだ!!」
「何度言い寄ったって変わらないわ! お兄ちゃんなんかと付き合うわけないでしょ! だって好みじゃないもの!! 兄じゃなきゃここまで一緒にやってこなかったわよ!!」
「なっ!?」
「いっつも偉そうだし! 素直じゃないし! ムッツリだし! お兄ちゃんなんてダメダメよ!? どんなに優秀でカッコよくたってそれじゃあモテないのよ!!」
「くっ……」
「お兄ちゃんが磨くべきなのは腕っぷしじゃなくて男としての魅力よ! 一回くらい私以外の誰かを好きになってみせなさいよ! 初恋拗らせて卑屈になってんじゃないわよ! お兄ちゃんなら絶対良い人見つかるから! 私も協力するから!」
「よ、よけいな世話だ!!! だいたいお前は!!」
「お前お前言わないでよ! お兄ちゃんこそ何よその呼び方は!! すっごい気分悪いんだからね!!」
「クーフェリア!!!」
「なによ! レオン!!」
「この決着はいずれ付けてやる!!」
「あっ!? ちょっ!? 逃げるの!? 嘘でしょ!? こら待てレオン! レオン!! 戻ってきなさい!!! バカレオン!!!!!」




