07-18.卒業後の進路
少し分かってきた。
相手を交渉の席につかせるためには、相手の欲しいものを手に入れるのが手っ取り早い。或いは自分だけが手に入れられるのだと示せばいい。
お兄ちゃんは自分が王位継承争いから降りることで、私の欲しいものを遠ざけた。
もう目前にまで迫っていたのに。お兄ちゃんが王になってくれれば、私の居場所が守られた筈だったのに。
お兄ちゃんの本当の目的は、私を王にすることなんかじゃない。私から譲歩を引き出すことだ。そのための駆け引きの材料として、私たちの将来をベットしたのだ。
このまま互いに意地を張り合い続ければ、アルベール兄様が王位を継ぐだろう。
時間はそう残されていない。私がなんらかの譲歩を示さなければ、お兄ちゃんは決して動かない。
お兄ちゃんはそれを待っているのだ。私の口から譲歩を引き出したいんだ。自分から要求するのではなく、私が下手に出てお願いするのを待っているのだ。何を以って補填とするのか、私自身に決めさせたいのだ。
それを下劣だなどとは言うまいよ。元はと言えば私が酷いことをしてきたんだから。何の対価も支払わず、私のために一生を捧げてくれだなんて虫が良すぎたのだから。
お兄ちゃんは今までよくしてくれていた。頑張ってくれていた。限界を迎えたとしてもおかしくはない。虚しくなって当然だ。ここが最後のチャンスだと思えばこそだろう。
結局はそれだけの話だ。お兄ちゃんが手の平を返したことに特別な秘密なんてありはしない。私が追い詰めすぎただけだ。人間として当たり前の感情が爆発しただけだ。
悪いのは全部私自身だ。お兄ちゃんを納得させるのは私の役目だ。私は人として必要な筋を通すべきなのだ。
「とは言ったもののよ」
私はいったいどうすればいいのかしら。
お兄ちゃんが求めているものはわかった。
私がなすべきこともわかった。
けれどどう行動すべきかがわからない。
お兄ちゃんが真に求めるものを私は差し出せない。
だからってお兄ちゃんに頼るのをやめるのも無しだ。
私はお兄ちゃんと決別したいわけじゃない。
「クーちゃんは全部欲しいんでしょ。居場所も。レオン殿下も。何をどう言い繕っても、それが本心なんでしょ」
「問題は関係性よ。私とお兄ちゃんでは『欲しい』の意味合いが違うんだもの。このままでは平行線だわ」
「王様になっちゃえばいいじゃん。自分で居場所を作れば良いだけの話でしょ」
「逆にお兄ちゃんを囲えって言うの?」
「主導権を握れば振り回されることもなくなるよ」
「そんなやり方したらお兄ちゃんが」
「お兄ちゃんお兄ちゃんって、ブラコンも大概にしなよ」
「なによ! お姉ちゃんは知ってるじゃない!!」
「クーちゃんは我儘なだけだよ。もう十八歳だよ。いつまでもトラウマのままにしておくつもりなの? 家族だろうと別れは必ず訪れるんだよ? お兄さんとお父さんまで不老不死にするつもりなの? そうじゃないんでしょ? ならさ。いいかげん成長しないと。いつまでも甘えてないでさ。でないと皆心配だよ。きっとレオン殿下もさ。このままじゃダメだと思ったんだよ。クーちゃんを独り立ちさせないとって。ギルドを作る時だってそうだったでしょ」
それは……。
「頼らなきゃ保てない繋がりなんて歪だよ。クーちゃんにとってそれは愛を確かめる方法なのかもしれないけどさ。それが許されるのは子どもの間だけなんだよ」
……。
「もう妹は卒業しなよ。学生じゃないんだからさ。一人前なんだからさ。次はクーちゃんが恩を返していく番でしょ。散々お世話になったんだからさ。立派に成長したんだからさ」
……。
「今更だけど進路を決めようよ。それをお兄さんに示してあげようよ。王様にならないなら説得力のある未来図を提示してさ。自分はこうなりたいって保護者に説明してさ。ちゃんと承諾を貰おうよ。それは皆が当たり前にしてることだよ。クーちゃんがお姫様だから必要なわけじゃないんだよ」
……。
「もう少し考えてみて。進路相談には乗るからさ。それくらいなら姉として頼られてあげるからさ」
……うん。




