07-17.意地の張り合い
お兄ちゃんは諦めなかった。
それも当然だ。そもそもお兄ちゃんの目論見は、始めからパパとは別のところにあったんだもの。
「ここを離れられない口実があるのに何が不満なのよ?」
私はアルミディアに縛られている。多少隣国や魔王国に行くくらいなら問題は無くても、一年を通してずっと他所の国で暮らすとかは出来ないそうだ。
お兄ちゃんの目的があくまで私にあるなら、私がこの地を離れられない現状は都合が良い筈だ。知っていたなら素直に伝えてしまえばよかったのに。
「……何故当然のように現れる」
質問に質問で返さないでほしいわ。
お兄ちゃんの部屋のソファに陣取り、言葉を続ける。
「お兄ちゃんが勝手に喧嘩を売ってきただけでしょ。私には真面目に相手をしてあげる理由もないもの」
「……」
もちろんそんな薄情なことを本気で思っているわけじゃない。これは挑発だ。本心を引き出したいだけだ。
「こんなことをして私がお兄ちゃんを男性として愛すると思うの?」
「……」
「残念だけど失望したわ。だからってお兄ちゃんを嫌いになったわけではないけれど」
「……言いたいことはそれだけか?」
何さその反応。全然乗ってこないわね。
「用が済んだのなら帰れ。もう夜も遅い」
なんでそんな優しい声音なのさ。
まるで相手にする気がないのはお兄ちゃんの方だ。
「私を子ども扱いしているの?」
「……」
「お兄ちゃんの目的を教えてよ。協力できることならしてあげるから。王様にはならないけど」
「お前を王にすることだ。それ以外である筈がなかろう」
「ならないってば」
「帰れ」
「話しなさい」
「必要ない」
コイツぅ……。
「意味がわからないわ。この状況からお兄ちゃんが勝つ方法なんて無いじゃない」
「……」
「議論する気も無いなら素直に負けを認めなさいよ」
「必要もないのにペラペラ喋るのはお前の悪い癖だ」
「減らず口はお兄ちゃんもでしょ」
「……」
本当に面倒くさいお兄ちゃんだわ……。
「ふぁ~……ぁ……」
「帰れ」
「帰らないってば」
けど本当に眠くなってきたわね。今日は色々ありすぎたもの。
「そうだわ。決闘なんてどうかしら? お兄ちゃんもそのつもりはあるのでしょう?」
あのボロ侍を雇ったのは修行を付けてもらうためだ。間違いない。身のこなしを見ればわかる。お兄ちゃんは強くなった。それでも私には遠く及ばないだろうけど。
「帰れ」
これも答える気はないらしい。やっぱり何か作戦はあるのだろう。情報を伏せるのはまだ諦めていないからだ。
「お兄ちゃんもわかってるでしょ。この調子じゃアルベール兄様に全て掻っ攫われるわよ」
「……」
「お兄ちゃんが王になってくれなきゃ私も困るのよ。アルベール兄様がお兄ちゃんほど私を自由にさせてくれるとは思えないわ。私がこの国に縛られているのをいいことに、アルベール兄様は私をこき使うかも。もしかしたらこの身体も」
「それはない」
今のは食い気味だったわね。
「約束したじゃない。お兄ちゃんが王になって私の居場所を作ってくれる筈だったじゃない。どうして今になって代われだなんて言うのよ」
「……」
「お兄ちゃんが諦めたら私がやる気を出すとでも思った? 私に自分の力で居場所を作らせたいの? そのために王にしたいの? 黙って待っていれば私が動くと思うの?」
「……」
「何か言ってよ、お兄ちゃん。そんなのズルいじゃない」
「……ズルいだと? それをお前が言うのか?」
「そうね。私はお兄ちゃんを利用したわ。今もこうして利用しようとしているわ。お兄ちゃんには私のために生きてほしいと望んでいるわ。けれど私はお兄ちゃんのために自分を差し出すつもりが無いわ。夫婦として愛し合うつもりはないし、お兄ちゃんに代わって王を務めるつもりもない」
「……巫山戯た話だ」
「まったくね。申し訳ないとは思ってるわ」
「……」
「けどだからって引き下がったりしないわ」
「……」
「出来ることはするって言ってるじゃない。デートくらいならいくらでもしてあげるわ。一緒の時間を過ごしたいならそう言えばいいじゃない。兄妹としてなら愛してるって言ってるじゃない。私だって悪いとは思ってるのよ。けど」
「帰れ。聞くに耐えん」
「……失望してくれた?」
「……俺は諦めが悪いんだ」
「……知ってるわ。妹だもの」
「……」
ごめんね、お兄ちゃん。




