07-16.家族会議・続
クーちゃんが国を捨てれば世界が滅びる。
かつてオフィーリアは戦う覚悟を決めた。クーちゃんを連れて国を逃げ出すつもりだった。たとえ国を滅ぼしてでも、クーちゃんを生かし続けようとした。これまで守ってきた全てを捨てて、ただ一人の娘だけを生かそうとした。
国を守ろうとした父。娘を守ろうとした母。
二人はその日決別した。我はそこに介入した。
我は二人の決意に免じ、彼女の力の殆ど全てをクーちゃんに移し替えた。クーちゃんの命を永らえさせるために。
その時通じたパスが原因だったのだろう。洗礼式のあの日、クーちゃんに殆どの力を持っていかれてしまったのは。
クーちゃんは四神獣の王だ。
四神獣とはこの世界の守護者だ。
各属性の魔力を司り、大陸の四方に根を張っていた。
そうして地脈を守り、世界中の魔力を制御していた。
彼らが自由に動けるようになったのは、クーちゃんから力を貰ったからだ。本来であればそれぞれの持ち場を外れる事は出来なかった。
クーちゃんに課された制約はそれと同種ものだ。
クーちゃんがアルミディアを離れ続ければ、いずれアルミディアを中心に魔力が溢れて滅び去るだろう。
この世界の魔力は毒だ。属性毎に分けて、初めて人間の扱えるものとなる。
中でもアルミディアの地脈は特別なものだった。ティグリスだけでは抑えきれない程に暴力的なものだった。
要するにクーフェリアとは、生きた濾過器だ。
しかも一度は限界を迎えかけたことがある。オフィーリアの力におまけして、我が少しだけ力を与えたことで、洗礼式までは持ち堪えた。
洗礼式で我の力を奪った今のクーちゃんなら、たぶん当面は保つだろう。百年か、千年か、どれほどなのかは我にもわからないことだけど。
その間にクーちゃんが成長を続けるなら、いずれは完全な自由だって掴めるかもしれない。もしかしたら問題を根本から解決してくれるかもしれない。
それがこの世界とクーちゃんの真実だ。
「どうしてそれをわたしに言おうと思ったの?」
「委ねようと思って。クーちゃんのお姉ちゃんだし」
「伝えてもいいってこと?」
「任せる。本当は隠しておく意味なんてもうそんなにないからね」
「まさかクーちゃんに嫌われるとでも?」
「自覚しなければ幸せに生きられるかなって。ちょっと旅行に行くくらいなら問題も無いんだしさ」
「わたしに引き止めてほしいんだね」
「うん。今のままだとクーちゃん、反発して出て行っちゃいそうだし」
「正直に伝えなよ。クーちゃんは受け止められるよ」
「……そうかな~」
「イロイ。気持ちはわかるけどさ。吐き出して楽になっちゃいなよ。全部皆に押し付けちゃってさ。受け止めるのはクーちゃんだけじゃないんだしさ」
「お姉ちゃんから言ってくれない?」
「ダメだよ、イロイ」
「……そっか~」
「伝える時は一緒に居てあげるからさ」
「……うん」
「すぐに伝えるんだよ。百年後でいいやって思ってるかもしれないけど、人間の気はそんなに長くないからね」
「……やっぱりアヤちゃんから」
「ダメだってば」
ざ~んねん。
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「なによ。そんなことなの?」
『そんなことって……』
「私は転生者よ。何かしら役割があるなんて最初からわかっていたことよ。その中でも随分シンプルでわかりやすいお役目ね。けど私にしか務まらないことなんでしょ。他の四人の転生者たちですら、私の代わりにはなれないんでしょ。ならやってやるわよ。その程度で良いんなら。根本的な解消だって目指してやろうじゃない。コソコソしてないで最初から全部私に任せておけばよかったのよ」
『あ、あはは~……思ってたのと違う……』
「黙ってコソコソしてる方がずっと感じ悪いわよ。次からは素直に謝りなさい。悪気が無いなら許してあげるから」
『……うん。ありがとう』
「てことで私はこの国に残るわ。王にはならないけどね。パパもそれで良いでしょ?」
「う、うむ……いや待て。転生者とは」
「話は終わりよ。お兄ちゃんの方は任せたわ」
「ま、待て! 待ってくれクーフェリア!」
呼び止める声を無視して転移門をくぐった。
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「良かったの?」
転移門の側に居たお姉ちゃんが、パパの情けない叫びを聞いて問いかけてきた。
「いいのよ。勝手なことを言い出した罰よ」
「クーちゃんは許してあげるの?」
今度はママが問いかけてきた。
「許す? パパは王として、この世界に生きる人として、私を捧げると決めたのでしょ。誰かに責められるようなことではないわ。たとえ私自身だって責めやしないわ」
「……そっか」
「そんな顔をしないで、ママ。何も自ら命を絶とうとしているわけじゃないんだから。いずれ必ず私を必要としない世界にしてみせるわ」
「そんな言い方嫌よ……」
「今のは言葉の綾よ。私に頼る必要のない世界にするって言いたかっただけ。大切な家族が必要としてくれるのは嬉しいわ。けど国民全員に必要とされるのはやりすぎね。私に王は務まらないわ。必要とされてから動くだなんて性に合わないもの。やっぱり私は影の英雄でいたいのよ」
「うん。ママも応援してるわ♪」
「一緒にやるのよ。私がママを必要としているのよ。だから未来永劫ママの居場所は私の側に在り続けるのよ」
「も~♪ お母さん離れしないとダメよ~♪」
嬉しそうな顔しちゃってまぁ。
「クーちゃん、レオン殿下はほっといていいの?」
「パパに任せるわ」
「手に負えると思えないんだけど」
……それもそうね。まだ何かしかけてくるかしら。




