07-12.婚約破棄
「クーフェリア。お前との婚約を破棄する」
なぁ~に言ってくれちゃってるの!? このお兄ちゃん様はぁ~~~!!
婚約を!? 破棄するですって!? 吐いた言葉は飲み込めないのよ!? 今は卒業式の真っ最中よ!? 大勢が見ているのよ!? 冗談では済まないのよ!?
「な、何を言ってるの!? お兄ちゃん!?」
「次期王となれ。クーフェリア。私はお前を支持する」
「ちょっ!?」
ここで!? ここにきて!? この土壇場で!?
お兄ちゃんが私を裏切ったぁ~~~~!?
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私は半ば逃げるように屋敷へと帰ってきた。
「はぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」
「ほら。言わんこっちゃない。油断してるから」
「誰も!! 言ってないでしょ!! あのお兄ちゃんが裏切るだなんて!! 予想もしてなかったくせに!!」
「まあね。わたしも驚いたよ」
「私は姫よ! 悪役令嬢とは違うのよ!!」
「悪役令嬢がお姫様ってパターンも無くはないみたいだよ」
「知らないわよ!」
そういう問題じゃないでしょ!!
「ここでゴネていていいの? 今のタイミングでレオン殿下とクーちゃんの仲違いなんて起きたら、次期王の座は第一王子が掻っ攫うだけじゃない?」
「何が言いたいのよ!?」
「レオン殿下の提案を受け入れるしかないんじゃない? でないとレオン殿下、何もかも失っちゃうかも」
「まさかお兄ちゃんが!? 自分を人質にしたの!?」
「それくらいするでしょ。あのシスコンは」
「裏切っといて何がシスコンよ!!」
「全部クーちゃんのためでしょ」
「私のためってんなら当初の予定通り進めなさいよ! 何勝手にオリチャー始めてんのよ!!」
「それはわたしに言われても困るよ」
「お姉ちゃんが言い出したんでしょ!!」
「言い出したのはレオン殿下だよ。もう一度話してきなよ」
「もうどうにもなんないわよ! 宣言しちゃったもの!!」
「それでもさ。打ち合わせは必要だと思うよ。今後の為に」
「知らないわよ!! お兄ちゃんなら勝手にどうとでもするでしょうよ!!」
「気付いたら王様になってるかもね。クーちゃんが」
「ど~してそうなるのよ~~~~~~!!!」
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……落ち着こう。一旦冷静になろう。
アヤメ相手にボヤいていても意味は無い。
「ボヤく? 癇癪起こしたの間違いじゃ?」
「うっさいわね!! 心の声にまでツッコミ入れてくんじゃないわよ!!」
「あら~♪ 二人とも仲良しね~♪」
「母さんにはそう見える? 姉を座布団代わりにする妹は叱るべきじゃないかな?」
「ママも座ってい~い~?」
「良いわけないでしょ。これは私のよ」
「もうやだこの母娘」
仕方ないわね。
お姉ちゃんの上から退いて、隣に座らせる。
ついでにママをその隣に座らせて、二人の膝の上に横たわる。頭はお姉ちゃんの膝に。身体はママの膝に。バッチリ。
「撫でなさい」
「仰せの通りに。陛下」
「殿下よ! 洒落になってないわ!!」
どうすんのよ! 本当に!!
「あらあら~♪ トラブルかしら~♪」
「実はね、ママ」
かくかくしかじか。
「あらあら~♪ まあまあ~♪」
「お兄ちゃんは斬っちゃダメだからね」
「うふふ~♪ そんなことはしないわ~♪」
そうね。ママって人は斬らないものね。
「そもそも剣なんか使わないでしょ」
お姉ちゃんは細かいわね。
さて。いつまでもお姉ちゃんの相手をしている場合じゃない。対応策を考えねば。
『いいじゃない。国ごと貰ってしまいなさいな』
『さんせ~♪ クーちゃんは世界の王たる器だからね♪ 一国くらい軽~く治めちゃってよ♪』
フィリアもイロイも何を言い出すのよ……。
「どうせ実際の統治はフィリアスに任せるんでしょ?」
くっ……! やっぱりこのお姉ちゃんは敵ね!
「痛いよ。太腿抓らないで、クーちゃん」
「いくら貰ったのよ」
「何の話さ」
「まだお兄ちゃんに雇われていたのね」
「何を言い出すかと思えば」
「この時のための伏線だったのね」
「違うから。ないから。繋がりなんて」
「怪しいわ」
「ひどい……」
「そうよ~。お姉ちゃんを疑うなんて良くないわ~」
「ならママはどう思ってるの?」
「もう何の心配もしてないわ。クーちゃんは自由だもの♪」
だから口を出すつもりも無いと。
「王にはならないわ。私は昼行灯を目指すのよ」
「出た。昼行灯。懐かしいね」
「茶化さないで」
「もう二年くらい言ってなかったじゃん。毎日あくせく働いてたじゃん」
「知ってるでしょ。全てを終えてから手放すのよ」
「ならそれこそ今更じゃん。どうせならあと五十年くらい付き合ってあげたらいいじゃん。わたしたちの人生はもっともっと続いていくんだし。どうせ途中で放り出したら後悔するのはクーちゃん自身だよ。もっと家族のために何かしてあげれば良かったってこの先一生後悔し続けるんだよ。そんな想いをするくらいなら、今頑張っておいた方が良いと思うよ」
くっ……いちいち正論ばかり言いおって……。
「だいたい誰も納得しないでしょ。第四王子の派閥は第四王子だからこそ付いてきたのよ。土壇場でトップが私に挿げ変わるなんて裏切りだわ」
「当然根回しは済んでると思うよ」
「だからって」
「無理だよ。もう時間は無いよ。全ての準備が整ったからレオン殿下は動き出したんだよ。今晩陛下は夜会で王太子を宣言するんでしょ。レオン殿下とクーちゃんの卒業を祝う式典で。こんな詰め込んでるのも全部クーちゃんを王にするためのお膳立てだったんだよ。もっと早く気付くべきだったね」
「逃げましょう!!」
「だから後悔するのはクーちゃんだってば。本気なら付き合うけど」
「ならどうしろってのよ!!」
「諦めて受け入れればって言ってるじゃん。どうせフィリアスの誰かに影武者を任せるだけなんだしさ。拘ることもないと思うけど」
「納得いかないわ!!」
「そうだね。突然だったもんね。嵌められたもんね」
「だいたい婚約を破棄する意味がわからないわ! 私を王にすることと私とお兄ちゃんが夫婦になることは別でしょ!」
「そうでもないよ。そしてだからこそだよ」
「意味がわからないわ!」
「レオン殿下は形だけの夫婦より、クーちゃんを側に置くことを選んだんだよ」
「なによそれ!?」
「殿下は宰相にでもなるつもりなんでしょ。クーちゃんを縛り付けるには王妃じゃ足りないんだ。だから王様として玉座に縛った上で、自分が側に居たいんだよ」
「私のせいだって言うの!?」
「そうでもあるし、そうでもないかな。これは殿下なりのアプローチなんだと思うよ」
「無茶苦茶よ!!」
「それだけクーちゃんを手放したくないんだ」
「私は別に!! この国から居なくなるつもりだったわけじゃないわ! 元々お兄ちゃんが生きている間くらいは住み続けるつもりだったのよ!」
「それをちゃんと伝えたの? 伝えてないでしょ?」
「だからって!!」
「今までちゃんと話し合わなかったもんね。互いに互いを利用する関係だからって甘えていたもんね。そのツケが回ってきたんだよ。どうしても嫌なら話し合ってみなよ。今からでもさ。殿下は喜んで話を聞いてくれると思うよ」
「……そんなこと……言われたって」
「なんなら決闘でも申し込んでみたら? そっちの方が伝えやすいならさ。クーちゃんが勝ったら殿下が王様。殿下が勝ったらクーちゃんが女王様。それくらいわかりやすければお互い納得も出来るでしょ」
「……お兄ちゃんが受ける筈ないじゃない」
「そうかな? やりようはあるでしょ。代理を立てたりさ。それにレオン殿下だってきっと強いよ。あのボロ侍を手元に置いたのだって、クーちゃんに勝つためかもよ」
「……そうね」
……お兄ちゃんはそういう人だ。




