07-11.卒業と定番のイベント
部活動を通じた冒険者の布教は想定以上の反響を呼んだ。
私の影響力も中々捨てたものじゃない。或いはお兄ちゃんのかもだけど。けどきっと、アピコン……『アピカル・コンクエスト』における私の活躍も無関係ではない筈だ。
学園においては特に私の実力が広まっていた。最早誰も風属性使いだとは思ってくれていないが、結果的にこの活動の役には立った。
要するにだ。私の下で学べるという特典が人を集める大きな要因となったのだ。学園に通う貴族の子女たちは、日々の決闘で私が連戦連勝を重ね続けていた姿を目の当たりにしている。そんな私と共に魔物狩り……即ち実戦の場へ赴けるのならと、喜んで参加を表明してくれたのだ。
私をダシにすることで両親の許可が降りやすくなっていたのもあり、あっという間に参加希望者の数は膨れ上がった。
しまいには、敵対派閥の者たちまで参加を希望した程だ。
これにはお兄ちゃんも苦笑いしていた。またしても切り抜きに動いたと第一王子派閥の者たちが騒ぎ出したからだ。
逆にこれ幸いと、私はお兄ちゃんを唆し、お兄ちゃんは学生たちを唆して、学園に生徒会を作る流れを生み出した。
学園においては派閥や家の事情と関係なく活動出来るようにと、生徒たちが自ら集まって自治組織を作り始めたのだ。
もちろんお兄ちゃんの誘導ありきではあるけど、実際の代表には全く別の人物を立てている。初代生徒会長となった彼……ギルバートは、学園内外で身分を問わずに生徒たちが活躍出来るようにと、冒険者部の正式発足にも尽力してくれた。
その過程で、冒険者部はダンジョン部へと名前を改めることとなった。
私が先生方に提案を通して活動許可を得た時点では、あくまでお姫様の酔狂程度の扱いだった。姫が人を集める口実なのだと思われていた。
それを学生の平等を謳う生徒たちが後押ししたことで、学園側も認識を改め始めた。思えば部活動そのものが本格的に認められたのもあの頃だったのだろう。
ダンジョン部以外の部活が生まれ始めたのもその頃だ。
次第に部活動の申請数も増していった。それらを取り纏めていったのが生徒会だ。纏めた内容を教師側に伝えて、申請がスムーズに進むよう、後押ししてくれた。
教師陣もこれは楽で良いと生徒会を頼るようになった。生徒たちだけでなく、大人たちをも巻き込んで、学園は更なる変化を遂げていった。
そうこうしている内にまた一年が過ぎ、私たちの卒業が近づいてきた。
「なんでアンタが学園にいるのよ」
「顧問様だぞ。敬え、姫さん」
えへんと胸を張るボロ侍。
いや、元ボロ侍と言うべきか。今ではすっかり身なりも良くなったもの。特徴が無くなったとも言えるわね。刀を腰に差しているとこくらいしか、かつての面影が無い程だ。
「お兄ちゃん。やっぱりこいつを雇うのはどうかと思うわ」
「ふっ」
何をニヒルに笑ってるのさ。もう直学生でもなくなるんだから、そうやってカッコつけるのやめたら?
「ほ~れ。活動始めっぞ~」
「ちょっと! 部長は私よ! 勝手に仕切らないでよ!」
「今日の活動内容は次期部長の選定だ~」
「もう決めてあるわよ! 引き継ぎも進んでるわよ! 余計なお世話よ! 田舎に帰りなさい! ボロ侍!!」
「なら今日から部長交代だ~。姫さんは元部長。そんでもって部活動も引退だ。三学年は卒業後の準備もあるだろ~。いい加減専念させろって上からも言われてんだよ~」
くっ! 正論なんぞ言いやがって! ボロ侍のくせに!!
『お口悪いわよ、クー。ダンジョン部の皆が困惑してるわ』
しまった!? 私のイメージが!?
おのれボロ侍!! やっぱりその首たたっ斬ってやる!!
「おっとっと。なんだいきなり。遊んでほしいのか?」
「うるさい! 問答無用!!」
「勘弁してくれ。殿下から厳しく言われてんだ。姫さん傷つけたら首になっちまう」
「好都合!! 首だけ故郷に送り返してやるわ!!」
「おっかねぇ~!?」
この事件は後に語り継がれていくこととなった。突然豹変したお姫様が初の顧問に斬りかかり、その顧問は苦戦を強いられながらもどうにかこうにか捌き切ってみせた。
これが学園の伝統行事の一つにまで昇華されるのは、また未来のお話。
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「卒業かぁ~……」
「卒業ねぇ~……」
「なぁに~♪ 二人して~♪ 黄昏れちゃって~♪」
ママが、ソファに並んで座っていた私とアヤメの背後から近づき、纏めて抱きしめてきた。
「やあ母さん」
「はぁ~い♪ アヤちゃん♪」
「暇そうね、ママ」
「ええ♪ とっても♪ 相手してクーちゃん♪」
ママはソファを回り込んで、私とお姉ちゃんの間へ強引に割り込んで座ってきた。
「ママ重い」
「失礼しちゃうわ~♪」
なんか鬱陶しいモードだ。今度は私を抱きしめてグリグリと頬を擦りつけてきた。
「クーちゃん、卒業後はすぐに殿下と結婚するんだよね」
「形だけよ。知ってるでしょ」
アヤメったら。ママのことはスルーなのね。引っ剥がして自分の方に持っていってくれてもいいのに。
「その時王太子も決まると」
「お兄ちゃんの卒業を待っていただけよ。結婚とはタイミングが同じなだけで、直接的な繋がりは無いわ」
「不利だよね。普通に考えたらさ」
「実務経験の話をしているの? 忖度されてる時点でそんなの問題でもないでしょ。既にお兄ちゃんで決まっているわ」
「随分削られたけど、未だに第一王子の派閥も健在だよ。油断しない方が良いんじゃないかな」
「まさか一番目の兄様が私を略奪しにくるとでも?」
「結婚式の会場に乗り込んでくるかもね」
その結婚待った!! ってやつ?
私と一番目の兄様には碌な接点もないのよ?
そもそも、一番目の兄様だって親族なのだから、初めから席は用意されているのよ? ドラマみたいに、教会の扉をバーンと開いて現れる演出はあり得ないわ。
「或いはクーデターとか」
「いきなり現実的な話になったわね」
けどそれこそあり得ないわ。ここまで弱体化してから始めることでもないもの。
「何も心配要らないわ。私たちは気楽に見物するくらいのつもりで見守っていましょう」
「当事者が言うこっちゃないよね」
「クーちゃん無責任~」
ママったらなんて言い草よ。これまで私もお兄ちゃんも沢山頑張ったじゃない。準備万端だから余裕を持てているんじゃない。逆に卒業間近になって進路のことで慌てだす方がよっぽどじゃない。
お姉ちゃんたら、卒業を控えてナイーブになっているのかしら?
本当に何も心配は要らないわ。これ以上事件なんて起こる筈もない。卒業すれば私も自由の身よ。実質的にって前置きは付くけどね。
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卒業式。閉会の直前。
何故か私とお兄ちゃんは壇上に立っていた。
「クーフェリア。お前との婚約を破棄する」
……は?
はぁ~~~~~~~~~~~~!?!!?




