07-10.やりたいこと
「部活を作るわ」
「突然何を言い出すのさ。そもそも制度が無いじゃんか」
「だからこそよ。いいから付き合いなさい」
「目的を聞かせてよ。唐突すぎて意味がわからないよ」
「冒険者ギルドに興味を持ってもらうためよ」
「貴族の子どもたちを冒険者に? んな無茶な」
そう。無茶な話なのだ。
現状の冒険者はあくまで平民の職業だ。貴族の坊っちゃん嬢ちゃんは例え興味を抱いたとて、表立ってやってみたいとは口に出来ないのだ。
魔獣災害が消えた今、わざわざ危険を冒してまで貴族の子女を鍛え上げる必要は無くなった。
聡い貴族たちは気付いている。学園のやり方は近い内に変わっていくことを。今までのように、強さを一番に追い求める場所ではなくなっていくことだろう。
つまり今が最後のチャンスなのだ。貴族の子女にダンジョン攻略の楽しさを普及できる機会は。
「なるほどね。今後はレジャー施設にでもするつもり?」
「そうね。それも悪くないわね」
「冗談でしょ?」
本気で悪くもないと思うけど。
貴族用のハイクラスダンジョンなんて新しいじゃない。
「貴族を取り込めば商機も格段に増えるわ。高級素材やそれらを用いた装備の販売。冒険者ギルドを大きくしていくには必要不可欠とさえ言えるわね」
「急にお金儲けだなんて。何か目標でもあるの?」
「危機感を抱いているの」
「なんでまた」
「このままではそう遠くない未来にパワーバランスが崩れるわ。王侯貴族より平民の方が大きな力を持つことになるの。そんなの、お兄ちゃんの治世に影響が出るでしょ」
ダンジョンの誕生により、人々は効率的に戦闘経験を積めるようになった。今後冒険者たちの成長速度は魔獣狩りを主な職務としていた正規軍を遥かに超えるものとなるだろう。
もちろん王国側だって専門の部隊を作るけど、軍という性質上、個として強力な英雄は生まれづらい。
今はまだCランクが精々の冒険者たちだって、実力を磨いて遠からずAランク相当の力を手に入れることだろう。
魔物を倒せば人の身体は成長する。魔力も膂力も耐久力も、段々と人間離れしたものへと変化していく。
ダンジョンが各世界に自動生成される理由はそこにあるのだろう。人々を強くし、世界をより強固なものとするために存在しているのだろう。
人間が魔獣や魔物の成長に追いつけなければ、世界なんて簡単に滅び去ってしまうことだろう。
ともかくだ。魔物を倒せば経験値が手に入る。大勢で挑めばそれだけ経験値は分散される。多くて四、五人程度でダンジョンに挑む平民のパーティーと比べると、正規兵たちはどうしてもより多数で挑む必要が生じてしまう。労せずに、効率よく魔物たちを狩り取ることになる。
それではダメなのだ。それでは強い個人が生まれない。如何に効率良く狩れるとて、ダンジョンには無限湧きスポットなんて便利な場所はない。広大なエリアを彷徨いながら、ランダムに湧き出す魔物たちを倒す必要がある。軍は討伐速度こそ速いものの、機動力には難がある。結果的に少数精鋭で挑む者たちには遅れを取ることになる。
ダンジョンだって無限に魔物を生み出し続けられるわけではない。ダンジョンが糧を得る仕組みもまた存在している。それには多少の時間を要する。人々がダンジョン内に滞在することで溜まっていくその力の範疇でしか、魔物たちを生み出すことは出来ない。
もちろん軍で挑まれれば、ダンジョン側もより多くの糧を手に入れられる。けれど生成速度には限界がある。ダンジョン管理にもリソース管理におけるリスクというものがある。
軍に合わせた結果、メインとなる少数行動の冒険者たちが太刀打ちできなくなれば意味がない。その辺りのバランス調整も難しいところなのだ。
各ダンジョンには管理者として一人ずつフィリアスを置いてはいるものの、それぞれの経験がまだまだ浅い。当面は画一的なルールも必要なのだ。
「まあうん。軍が動かしづらいのはわかったよ。それで? なんで個人を強くする必要があるの? 軍が強ければそれでいいんじゃないの?」
「お姉ちゃんはド◯ゴン◯ールで何を学んだのよ」
「あ~……」
だいたいお姉ちゃんだって、軍隊を相手取っても負けることはないでしょうに。防衛戦とかならともかくとして。
そして私とママが手を組めば、アルミディア王国を相手取っても簡単に落とせるだろう。
強いやつは強い。私たちやボロ侍のように。
そういう強烈な個に対しては、どれだけ数を揃えても圧殺なんて出来やしない。軍隊と正面からやり合ったって私に負けはない。ボロ侍の逃げ延びられない戦場は存在しない。
いずれお兄ちゃんの前にも立ちはだかるだろう。そんな強敵がどこぞの貴族と手を組んで、王国を蹂躙せんと動くだろう。それではダメなのだ。
「なら貴族に力を付けさせるのも問題じゃん?」
「こちらが手配しなくたって、どうせ貴族は子飼いを育てるわ」
「だったら結局対抗出来るんじゃないの?」
「強くなり過ぎた個が、貴族なんかに尻尾を振り続ける筈がないでしょ」
「まあね。言いたいことはわかるよ。極端だとは思うけど」
「貴族が最も信頼するのは血の縁よ。身内に強者を持つのが必然になるわ」
「結局どっちなの? レオン殿下だけに力を与えたいの? それとも国そのものを強くしたいの?」
「その見極めがしたいのよ」
「……ああ。つまりは実験がしたいんだね」
「そう。そういうことよ。部活動を通じて学生たちをモデルケースにしてみるの。貴族としての誇り、国への矜持、民衆の模範。それらの基準がどれだけ働くのか見てみたいの」
可能なら扇動したい。規律を作り上げたい。貴族の子女たる彼ら彼女ら自身によって、ルールを定めてほしい。
こういうのは上から言っても疎まれるだけだもの。新しい社会は皆で決めていくべきよ。私たちが全てのレールを敷かずとも、誰もが道理を弁えて自制してくれるのが望ましい。
「そういう話なら良いかもね。放っておいても食い潰されるのがオチだろうし。ならいっそ、利権の絡みづらい環境を作るのは得策かも。だから部活動なんだね」
「そうよ。大人はどうしても利益を求めるものだもの。青春の一環に組み込むくらいで丁度良いのよ」
「どうやって介入を防ぐつもりなの? コトが大きくなれば、間違いなく大人たちだって首を突っ込んでくるよね」
「そういうのも自分たちで考えてもらいましょう」
「丸投げだね♪」
「いっそ生徒会でも作ろうかしら」
「そんなのもないんだっけ? わたしたちの学園って」
「そうなのよ。割り切りすぎよね」
勉強と魔術修行以外をさせるつもりがないのだ。あの学園は。
「冒険者ギルドも稼働を始めたばかりなのに、今度は学園の改革にまで乗り出すんだね」
「いっそ理事長にでもなってしまおうかしら」
「なってどうするのさ。いつまでもこの国に居続けるつもりもないくせに」
「表向きの立場は必要でしょ」
「王妃と冒険者ギルドのオーナーだけじゃ足りないの?」
「将来の話よ。未来永劫冒険者ギルドを牛耳り続けるのは不可能よ。必ず王国の手からは離れることになるわ。もちろん王妃の立場もよ」
お兄ちゃんまで不老不死にするつもりはない。永久不滅の唯一王なんて、悪目立ちしすぎていずれ討たれるのがオチに決まってる。そういうのは魔王だけで十分だ。
「ギルドも世界規模の組織にするんだね」
「そうよ。そのためには中立であるべきよ。でないとアルミディアが世界を支配するみたいな構図になってしまうもの」
「中立かぁ。どの国家にも属さない、巨大軍事組織。いっそ魔王国との対立関係にしちゃうのもあり?」
「そもそも魔王国を人類の敵にする必要が無くなったじゃない」
「それもそうだね。魔獣たちはみんな居なくなっちゃったわけだし。それらを集めてワッハッハってする話も無くなっちゃったし」
「それでもいずれ誰かが気付くでしょう。世界中のダンジョンは魔王の支配下にあるということに」
「魔王国のフィリアスたちがもっと増えて、あの雪国に誰かが住んでるって人類に気付かれれば、ダンジョン云々関係無しに国交は始まるだろうしね」
「いっそ自分たちから国交を結びに行くのも手よ」
今となっては。
「やることいっぱいだね♪ 最近は少しノンビリ出来てたのに♪」
「ちゃんと見張ってるんでしょうね」
「もち♪ そっちも忘れてないよ♪」
「ならいいわ。頼りにしてるわよ。お姉ちゃん」
「ブラックーちゃん再会だね♪」
「魔王ブラックよ」
「それ気に入ってたんだ」
「魔王ブラックーも悪くないわね」
「クーちゃんってセンスが独特だよね」
「どちらもお姉ちゃんが言い出したのよ」
「なんてこったい♪」




