07-07.正しい選択
私はどうするべきなのだろう。
ベルドール子爵は東でボロ侍を拾った。
彼はボロ侍の強さに気づいた。優秀な手駒を手に入れた。
その後、第一王子派閥に属する高位貴族に唆されて王都へ舞い戻った。
彼は、一度は第四王子に売り渡したクラリスを取り戻し、もう一度第一王子派閥に売り込むつもりでいる。
バックについた高位貴族がクラリスを養子として迎え、その上で第一王子の側室にねじ込む算段だ。
そのためには第四王子の存在が邪魔だった。
現在クラリスは第四王子の庇護下だ。ベルドール子爵が正当性を主張するには第四王子を黙らせる必要があった。
ボロ侍を使ってレオンお兄ちゃんを襲わせたのは、そういう経緯だ。既に調べは付いている。けれど証拠が無い。ボロ侍の動きは徹底されている。奴は決して痕跡を残さない。
ケジメを付ける必要がある。ボロ侍を捕縛すれば済む話ではない。ベルドール子爵を捕らえる必要がある。不穏分子を放ってはおけない。たとえ取るに足らない小物だとしても。
……それをクラリスに伝えるべきなのだろうか。
いずれ彼はお縄につくだろう。その時になってクラリスは知ることになるだろう。私たちが知っていて黙っていたことにも気付いてしまうだろう。
ならば最初から伝えておくべきなのだろうか。
クラリスが父の助命を嘆願したらどうするべきなのか。
彼は王子の命を狙った。既に一線は越えてしまった。
許すことは出来ない。最低でも斬首は免れない。最悪は一族郎党処さねばならない。既に家を出たクラリスを残し、母も兄弟姉妹も罰せられるだろう。
……幸い証拠は残っていない。気づいたのは私たちだけ。彼が中央にいる不自然さこそあれど、今ならお兄ちゃんも彼には何の興味も抱いていない。
三下だからと見くびられているのも功を奏した。今ならこっそり反省させて東に逃がす事は出来るだろう。
……本当にそれで良いのだろうか。私はクラリスの親友だけど、お兄ちゃんの妹でもある。お兄ちゃんの命を狙った輩が再び特別な武器を手に入れて仕掛けてくるかもしれない。一度あったことが二度無いとは言い切れない。
『伝えてしまいなさい』
フィリア……。
『クラリスとはこの先も長いのよ。秘密を持つべきではないわ』
けど……。
『見くびらないで、クー。クラリスは強い子よ』
そんなの……。
『わかっているでしょ。クー』
……。
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「あ、ごめん。言っちゃった」
「……は?」
「お気になさらず。クーちゃん。わたくしも理解していますの。父様は決して許されないことをしたのですわ」
なん……で……。
「わたくしの我儘が最初の原因であることも理解しておりますの」
「違うわ! クラちゃんは!」
「いいんですの。全部真実ですの。それでもですわ。ご家族を何より大切に想われるクーちゃんの前でこのような事は言いたくないのですわ。けれどハッキリと申し上げますわ。わたしくは父様を許せませんの。母様たちまで巻き込んで何をしているのだと文句を言ってやりたいんですの。もはやそんな言葉だけで済む問題ではないと重々承知の上でですの」
「私が!」
「ダメですわ! クーちゃん!」
「っ!?」
「クーちゃんが見逃すだなんて言ってはいけませんわ! それだけは絶対にダメですの! クーちゃんが守るべきはクーちゃんの家族ですわ! わたくしもそこに含まれているともちろん理解しておりますわ! それでも父様を! ベルドール子爵の行いを許してはなりませんの! 手段を間違えないでくださいませ! でなければいつか子爵と同じになってしまいますの! 家のため名誉のため金のため! それがたとえ守るべき家族のためなのだとしても! 悪を許容すれば破滅は我が身にこそ降りかかるものですの!」
クラ……ちゃん……。
「父様は間違えました。だからといって彼が根っからの悪人だとは申しませんわ。突然降って湧いたチャンスに目が眩んだだけの話ですの。上手くいきすぎて調子にのってしまったんですの。せめて娘のわたくしだけは、そのように理解を示すつもりなのですわ。けれど社会が……英雄王女であるクーちゃんがそれを認めてはなりませんの。わかりますわね?」
「……ごめんなさい」
「違うのですわ。謝るのはわたくしの方なのですわ」
「……うん」
「父がご迷惑をお掛けするのですわ。これ以上の罪を重ねる前に成敗してほしいのですわ。わたくしはせめて他の家族を守りたいのですわ。そのためにこそ、クーちゃんの力をお借りしたいのですわ」
「任せて。絶対に守ってみせるから」
「感謝いたしますわ♪ クーちゃん♪」
……こちらこそ。クラちゃん。




