07-04.襲撃者
「お兄ちゃん!?」
「……声がデカい。抑えろ。気付かれたらどうする」
異変に気付き、慌てて転移で飛び込んだ時には、既に賊を取り逃がした後だった。
「俺は無事だ。問題ない。だから帰れ。すぐに集まるぞ」
お兄ちゃんの言う通りだ。部屋の窓が割れている。異変に気づいた近衛たちが飛んでくるだろう。私がここにいるのは不自然だ。登城記録もない。未だ転移の存在は隠している。
「助かった。礼を言う」
そんなお兄ちゃんの水臭い言葉を背に受けて、私は一旦転移門を潜り直した。
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自室に戻って転移門を閉じた私は、再び小型転移門を開き直した。もちろん場所はお兄ちゃんの執務室だ。お兄ちゃんは集まってきた近衛たちに状況を伝えている。
賊の特徴を聞いて驚いた。あのボロ侍だ。東方の離島のその先の離児島で出会ったあの男が、どういうわけかアルミディアの王都にまで潜り込んでいたのだ。
彼はお兄ちゃんが纏う私の結界を破れないと見るや、慌ててその場から逃げ出したそうだ。
失敗した。あの時点で白黒結界を使っておくべきだった。私なら追えたかもしれないのに。まだ遠くまで行ってなかったかもしれなかったのに。
対策が甘かった。想定が足りていなかった。前回と同じ間違いを犯すなんて……。
『後悔は後。草の根かき分けても探し出しさせなさい。どれだけすばしっこくったって、今ならまだ王都から出ちゃいないわ。そのための手勢は用意してあるでしょ』
そうね! フィリア!
フィリアスたちに伝えなさい! 奴を必ず捕まえろと!!
『がってん!!』
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結論から言うとボロ侍は見つからなかった。
まるで転移でも使えるかのように忽然と姿を消してしまったのだ。前回と同じように。
侵入時の痕跡すら見つかっていない。近衛だけでなくフィリアスたちの力を以ってしてもだ。
何かしらインチキしているのは間違いない。時間停止すら通じなかったんだし今更だ。
『逆なのよ。奴には汎ゆる痕跡が視えているの。だから消せるのよ。決して転移や時間停止が使えるわけではないわ』
奴は視えているなら斬れると、魔術の発動すら妨害してみせた。同じ要領で自らの痕跡を消せるのだろう。
無茶苦茶だとは思うけど、私も大概だからそこはいい。
奴は魔術を使えないと言っていた。本当に転移やなんやらを使えるわけではないのだろう。
「お兄ちゃんは何故狙われたのかしら」
敵対派閥……即ち第一王子派閥の工作かしら。
或いは冒険者ギルド関連かしら。魔物素材の独占を奪いたいのかしら。それとも部下をSランクにしてもらえなくて逆ギレした貴族かしら。
わからない。情報が足りていない。なら探さないと。たとえ奴が痕跡を掻き消せるのだとしても、自分自身の身体を消せるわけでも、依頼者の存在を無かったことに出来るわけでもあるまい。たとえ依頼者を処分しても痕跡は残る。
暗殺者のわからぬ貴族殺しなんて必ず話題になる。手口が特殊過ぎるからこそ奴の痕跡は残る。痕跡のない事件という痕跡が。その線で追ってみよう。一先ずは。
『動機を辿るのも大切よ。手段が詳らかに出来ないのだとしても、それを指示した者にはレオン王子との繋がりがある筈よ。たとえ一方的なものだとしてもね』
ええ。そうね。見つけましょう。今度こそ。必ず。
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「洗い出したよ。ギルドに粉掛けてきた貴族」
「ありがとう、アヤメ」
アヤメから調査報告書を受け取った。
「ヒマリはなんて?」
「網は張ってるって」
「まだ掴めていないのね」
「苦戦してるみたいだね」
まあいいわ。ヒマリの組織ならいずれ何か掴むでしょ。
「……これとこれと……これ」
資料に目を通し、いくつかの箇所に印を付けてアヤメに返す。
「詳しく調べなさい」
「がってん♪」
アヤメは何も聞かずに歩き出した。
すっかり慣れたものだ。この一年、私の秘書としてあっちこっち引っ張り回した甲斐がある。
「待ちなさい」
「なに?」
スタスタと戻ってきた。
「挨拶も無し?」
「がってんって言ったじゃんか」
「察しが悪いのね」
お姉ちゃんを引っ張り寄せて口づける。
「いってらっしゃい。お姉ちゃん」
「これだけ?」
「遊んでる暇無いでしょ。しっかり仕事してきなさい」
「終わったら覚悟しておいてよね」
「ふふ♪ 楽しみにしているわ♪」
お姉ちゃんはもう一度私に口づけてから、今度は急ぎ足で立ち去った。




