07-01.新たな挑戦
新居は本当に城と学園の直ぐ側だった。
元々はとある公爵のお屋敷があった土地だ。
その辺りの事情に興味があるわけではない。
お兄ちゃんはわざわざ魔術師たちまで動員し、新たに屋敷を建て直してくれた。
重要なのはそれら事実だ。世間的に私たちがどう見られるかという話だ。
「わたしたちってさ。纏めてレオン殿下のハーレムだとでも思われてるのかな」
とある日の学園帰り、我慢の限界だとでも言わんばかりにアヤメが呟いた。
「私のハーレムだと思われるよりは健全ではないかしら」
学園で流れている噂は私も耳にしている。四六時中アヤメとは一緒に居るのだから当然だ。ママやユキノを学園に連れてくるわけもにいかないし。
私こと『十一王女』は第四王子の婚約者だ。表向きには。
実際には婚約ではなく共闘関係なのだけれども、お兄ちゃんは私を愛してくれているし、私もお兄ちゃんが大好きだ。
ただしそれはあくまで兄としてであり、私には同性の恋人がいるのが現状だ。
もちろんアヤメとの関係を公表しているわけではない。屋敷外の人で伝えてあるのはお兄ちゃんだけだ。
「本当に良いの? レオン殿下の好意を無碍にしろとまでは言わないけどさ。段々外堀が埋められていってるよね」
「そりゃあお兄ちゃんはそうするわよ。お兄ちゃんは本当に私を愛してくれているんですもの」
「とんだ悪女だね。全部わかっていて贈り物まで受け取ってしまうなんて。応えるつもりもないくせに」
「定期的にその話題を引っ張り出すわね、お姉ちゃん」
「言っておくけど、わたしが特別小心者なわけではないからね。むしろ常識人だよ。クーちゃんが甘えすぎなんだよ。妹だからって何しても許されるわけじゃないんだからね」
「もちろんお兄ちゃんが怒って返せと言い出したのなら直ぐに引き渡すわ。けれどお兄ちゃんはそんなコト言わないわ」
「だからこそだよ。クーちゃんが遠慮しないと」
「無茶言わないで。だったらどうすれば良かったのよ。オースティンと同じ屋敷で暮らすのは無理があるじゃない」
「そこは自分で上手くやってよ。そういうもんでしょ」
「別に最初から屋敷をおねだりしたわけではないわ。城に住まわせてほしいと頼みに行っただけよ」
「なんて言い草。それは悪女の物言いだよ。クーちゃん」
「アヤメが言わせたんじゃない!」
平行線だわ。アヤメのモヤモヤもわからないことはないけれど、それを私にぶつけられても困ってしまうわ。
「アヤメ。私たちは平民ではないし、ここは前世の社会と同じじゃないの。私にはまだ王女として相応しい振る舞いが求められている。けどだからって皆との生活を手放すつもりはないし、アヤメと別れるつもりもない。これは必要なことなのよ。素直にお兄ちゃんに感謝してはもらえないかしら」
「感謝はしてるよ。……ごめんね。言い過ぎた。クーちゃんだってわかってるもんね」
「そろそろまたお兄ちゃんのために働きましょう」
「そうだね。それは良い考えだね。問題は魔獣被害が片付いて、英雄王女の出番なんてありはしないって所だけど」
今日のお姉ちゃんは意地悪だ。
「平和は良いことじゃない。それでこそ影の英雄でしょ」
私たちが世界中から魔獣たちを回収していったからこその平和だ。こうして私たちが日常を送っている今も、世界の影でフィリアスたちが活動を続けている。世界各地から完全に魔獣が潰えるのも時間の問題だ。
「そう考えれば十分か。クーちゃんはもうたっぷり働いたもんね。二学期は殆ど学園にも行けてなかったし」
「巡り巡ってお兄ちゃんや国のためにはなっているでしょうね。魔獣の出現場所をダンジョンに限ったことで、防衛に掛ける労力を単純な資源回収に回せるようになった筈だし」
「流石にまだ移行は済んでないだろうけどね」
「お兄ちゃんには伝えたわ。こっちが全部終わってからだけど」
「いっそダンジョン資源も優先的に回してあげたら?」
「話だけは持ちかけてあるわ」
「根回し中なんだね」
「そんな所よ」
世界は大きく変わった。変わりすぎてしまった。
どこもかしこも対応が追いついていないのが現状だ。
無理もない。世界中にダンジョンが出現してから僅か一、二ヶ月程だもの。場所によってはもっと少ない。加えて私たちは何の説明も行っていない。知っているのはお兄ちゃんだけだ。そういう意味では大きなアドバンテージを用意出来たとも言えるだろう。
別に公平性だとかを主張するつもりはない。私が救った人たち以上に迷惑を被る人たちだっていることだろう。
魔獣たちは良くも悪くも隣人だった。それだけだ。
「冒険者ギルドでも立ち上げてみれば? この世界ってまだ無かったよね」
それもそうね。
この世界に存在した魔獣たちって、小型のものを除いて基本的に軍隊で仕留めるものだったから。
なにせ元々は厄介な魔力障壁のせいで特定属性でしか攻撃が通らないとかいう理不尽仕様だったんだもの。だから大勢の魔術師を用意できる王侯貴族にしか大物は仕留められなかったのよね。
「専門の教育機関とかあっても良いよね。ダンジョンに出現する魔物たちは、この世界の魔獣たちと違って障壁を纏ってはいないけど、強いに越したことはないだろうし」
「お兄ちゃんとも相談してみましょう。その前に帰ったら会議よ。皆の持つ冒険者ギルドの知識を集めましょう」
なんならヒマリは既にそういう下部組織を持っていそうだけれども。少なくともアルミディア王国にはまだ無い筈だ。
「クーちゃんも何か生業を持つべきかもしれないね。実業家のお姫様。カッコいいじゃん♪」
「あらそう。お姉ちゃんは魔王国宰相だけだと働き足りないのね」
「そんなこと言ってないよ!? もう十分だよ!?」
「ふふ♪ 遠慮は要らないわ♪ 次はギルドマスターなんてどうかしら♪ それとも初代にして唯一のSランク冒険者なんてのも捨てがたいわね♪ どうせならアヤメの名前も広めましょう♪ 堂々と私の隣に居続けてもらいましょう♪」
「待って待って! 遠慮なんてしてないからぁ!!」
あはは♪ 頑張ってね♪ お姉ちゃん♪




