06-11.モテモテ
「リーリア。行きましょう」
「うふふ♪ そうね♪ クーちゃん♪」
ママは生まれ変わった。オフィーリアからリーリアに。
幼い姿を手に入れたママは大はしゃぎだ。
勝手にこんなことをされて文句の一つだって口にしない。なんでもかんでも楽しむ人だとは散々思い知らされた筈だったのに、まさかここまでとは驚かされた。
「実はユキノ先輩も若返ってたりするの?」
「その手もあったわね」
ナイスアイディアよ。お姉ちゃん。
「ないです。このままで結構です」
ユキノって十五年前とも全然変わってないのよね。
「アヤメ様。私の事はどうぞユキノと。貴女様はオフィーリア様にも認められたクー様の姉君です。なればいつまでも従者として在り続けるのも不自然でしょう」
「そう? ならユキ姉って呼ばせてもらうね」
ふふ♪ お姉ちゃんたら♪
「ユキノもお姉ちゃんね♪ クーって呼んでいいわよ♪」
「御冗談を」
割と本気だったのだけれど。
まあいいわ♪ ユキノとの関係はこのままで♪ 生まれた時からこうなんですもの♪ やめてしまったら物足りなくなってしまうわ♪
「ふふ♪ ユキ姉♪」
「オフィーリア様まで。お戯れを」
もう奥様とは呼ばないのかしら?
「うふふ♪ ママも新米メイドになっちゃおうかしら♪」
「いいわよ。それでいきましょう。王妃でも英雄でも侯爵家の出戻りでもないただのリーリア。私の専属ママメイドとして、ユキノの後輩として、側に侍りなさい」
「は~い♪」
ほっとかれた分たっぷり甘えてやるわ! 覚悟なさい♪
「そうなると専属三人になっちゃうね」
「ならないわよ。専属はメインのユキノと補助のリーリアだもの」
「わたしの立場は!?」
「お姉ちゃんは私のお姉ちゃんだって言ってるじゃない」
「クーちゃんの専属も降りるつもりはないよ!?」
「何言ってるのよ。あなたとっくにクビになってるわよ」
「なんで!?」
「なんでも何も最近仕事してなかったじゃない」
「今は休暇中だって! 子守も要らないって! クーちゃんがそう言ったんだよ!?」
「心配しないで。後任はまたユキノに任せたから」
「復帰だよ!? 休暇明けたんだよ!?」
「バカね。休んで良いって言われたからって全部放り出せば居場所なんて簡単に無くなるのよ」
「酷すぎる!!」
「社会は厳しいの。勉強になったわね」
「クーちゃんのおーぼー!! ブラック魔王!!」
「良いわねそれ。魔王クーフェリアはどうかと思っていたのよ。魔王ブラック。それが私のもう一つの名前よ」
「開き直ったぁ!?」
流石に簡素すぎるかしら?
「あはは♪ も~♪ 二人とも♪ 漫才みたいね♪」
「クー様も元気になられて何よりです」
ふふふ♪ 心機一転よ♪ お陰様でね♪
----------------------
侯爵領の皆に挨拶を済ませ、王都の侯爵邸に戻ってきた。
従兄弟のオースティンは一度しか姿を見せなかったものの、なにやら私のママの新しい姿にドギマギしている様子だった。果たして彼の恋心は純愛だったのか。実はただのロリコンだったのか。やっぱりマザコンなだけなのか。よくわかんないけど深堀りすることでもないわよね。
取り敢えず距離感には気を付けよう。お祖父様や叔父様のことは大好きだもの。二人や侯爵家のメイドたちはとってもよくしてくれたわ。もちろんオースティンの母である叔母様もね。あの家と距離を置きたいわけじゃない。オースティン本人だって来年度から学園に通えば目を覚ますだろう。
彼はあんなでも英雄の甥っ子として十分過ぎる程の実力を持っている。将来の侯爵という身分と合わせ、学園ではさぞかしモテる筈だ。
そんなモテモテ学園生活を送ればママのことは間違いなく忘れ……あれ? 王都の侯爵邸に来るの? もう数カ月したら? 寮暮らしする気は? ない? そっかぁ~……。
ママは魔王城に住まわせましょう。セカンドハウスを作っておいてよかったわね。私はどうしようかしら。お城に置いてもらえないかしら。
帰ったらお兄ちゃんに相談してみよう。従兄弟とはいえ、年頃の男女が一つ屋根の下(めっちゃ広いけど)って、問題があるだろうし。なんならお兄ちゃんは既に私たちの住居を手配してくれていそうな気もする。お兄ちゃんだし。私の婚約者様だし。形だけだけど。
----------------------
「いつ気付くかと思っていたぞ」
ふんって鼻で笑われた。ちょっと懐かしい。こういうの。
しかもなんだか今日はえらくご機嫌だ。まるで私が言い出すのを待っていたかのように。
「屋敷は用意した。いつでも住める。俺からの贈り物だ。他に欲しいものがあればいつでも言ってこい」
わ~お。ふとっぱらぁ。
王子だからって簡単に用意できるものでもないでしょうに。きっと学園や城に近い王都の一等地なんだろうし。なにせ王太子候補の王子が婚約者の姫に贈るお屋敷だもの。城に部屋を確保する方がずっと簡単なことだった筈だ。
『クーを手放さないためよ。家は特にそういうものでしょ。侯爵からの借り物ではなく、自分から貸し出すのでもなく、敢えてクーの所有物として用意したのよ』
フィリアったらいつから人間の機微がそこまでわかるようになったのかしら。
「ありがとう、お兄ちゃん。けれど心配しないでも何も言わずに行方を眩ませたりなんてしないわ」
「……そういう問題ではない」
……うん。そうだね。お兄ちゃん。




