06-10.油断大敵
「よく来たな! 姉上!! いや! 我が娘よ!!」
こんのクソガキ……!!
『落ち着きなさい。ただの挑発よ』
わかってるわよ!!
「私は勝つ! 勝ってオフィーリア様を貰い受ける! そうなれば姉上は我が娘だ!」
わかってるわよ! 念入りに挑発してんじゃないわよ!
「御託は結構よ。さっさと始めなさい」
バカね。こんなにギャラリー集めちゃって。お祖父様までいるし。屋敷中の者たちに声を掛けたのかしら。よっぽど自信があるのね。図に乗っているわ。腹立たしい。
こんなバカバカしい茶番はさっさと終わらせて恥をかかせてやりましょう。
「よかろう! いざ尋常に!! 参る!!!」
準備しておいた白黒結界を起動した。
白黒に染まり、時間ごと制止するオースティン。
私は最初にオースティンの剣だけを白黒結界の内に取り込み、【断空】で空間ごと切り刻んだ。
当然時間の止まっているオースティンは無傷だ。
続けて防具、服と、丁寧に一つずつ破壊していった。
「流石に下着くらいは残しておいてやりましょう」
『これでも十分大人げないわよ』
「あら。私とオースティンは一つしか違わないわ」
『どうせなら実力で勝てばいいのに』
「これも実力でしょ」
『こんな勝ち方じゃ大好きなママに良いところを見せられないじゃない』
「……全部済ませてから言わないでよ」
『頭に血が上りすぎていたわね』
「はいはい。私が悪かったわよ」
最初の位置に戻り、白黒結界を解除する。
「勝負あったわね」
『クー!!』
「しまっ!?」
投げナイフ!? どこから!? まさか下着の下に!?
さてはママね! 私の手の内をバラしたのは!!
カキン。ボト。
地面に転がるナイフ。無傷の私。
「……あら?」
……いやそうよ。私に投げナイフなんて通ずる筈ないじゃない。何を驚いているのよ。
『バカ!』
「はぁっ!!」
下着姿のオースティンが躊躇なく掴みかかってきた。
投げナイフは意識を逸らすためのものだったのだ。最初から本命はこっち。
けどこの子に私の守りを突破する手段なんて……!?
『モノクロ!!』
合言葉を合図に瞬時に白黒結界が起動する。
これは予め仕掛けておいた術式だ。私の意志に関わらず、誰かが声を上げてくれれば発動するように仕込んでおいた。
『油断しすぎよ! これは試合なのよ! 防壁を破られなくたって一本と見なされればそこまでなのよ!』
オースティンの手は既に私の眼前だ。このままなら倒されて寝技に持ち込まれていただろう。
「……助かったわ。フィリア」
『初手で縛り上げておくべきだったわね』
「今からでもそうしましょう」
収納魔術で縄を取り出し、オースティンの身体に巻き付けてからテント用の杭を使って地面に突き刺していく。
『今度はやりすぎよ。ぐるぐる巻きすぎてミイラみたいになっちゃったじゃない』
「いえ。油断は出来ないわ。魔術はまだ使えるもの。口ももっとしっかり塞いでおきましょう」
『窒息するわよ』
むむむ……。
----------------------
「しょ、勝負あり!!」
「むがー!! むごー!! むぐぐぐーーー!!!」
オースティンたら全然納得してなさそうね。何言ってるかわからないけど。
「あははははは♪ おっかし~♪」
首謀者は笑い転げてるし。ご満足頂けたようで何より。
やれやれと頭を振るクリフォード叔父様。
口元を手で覆い隠し、笑いを堪えるオーランドお祖父様。
状況を飲み込みきれず、戸惑うその他の観客たち。
目を離したわけでもないのに、突然オースティンがミイラ男になってしまったのだ。その直前は下着姿だったし。戸惑うのも当然だ。
「オースティン! よく聞きなさい!! ママは私のよ!」
この際だからハッキリ宣言しておきましょう。これ以上余計な羽虫が纏わりつかないように。
「ママの全ては私のものよ! たった今そう決めたわ! あなたのお陰で覚悟が決まったわ! もう絶対手放さない! あんたの入る余地は無い! 誰の入る隙もない! ママのことは忘れなさい! 私が忘れさせてやるわ!!」
私はママを結界で囲った。
ママの姿が光りに包まれた。
それからすぐに段々と光が小さくなっていく。
既に大人のサイズではない。どこからか悲鳴が上がった。
私は気にせず術を掛け続ける。次第に光は収まっていく。
そして姿を現したのは……十歳ほどの少女だった。




