06-08.次の目標
「クーちゃんまだ怒ってるの?」
……なんだ。お姉ちゃんか。
「母さんの答えがそんなに気に入らなかったの?」
……なによ。母さんって。私のママよ。アヤメの母さんは前世のお母さんでしょ。呼び方くらいわけなさいよ。私だけ気にしてるみたいじゃない。
『よくわかってるわね。実際その通りよ』
なによ。フィリアまで。
「そりゃあ聞いたって惚けられるに決まってるじゃん。母さんも今更言い訳なんてしないよ。全部クーちゃんのためなんだからそのまんま言葉にする筈もないし。ああ言う以外他に無かったってわかるでしょ」
あ~もう! 本当に空気の読めないお姉ちゃんね!!
「別に怒ってないわよ!! アヤメはあっち行ってて!」
「ごめんね、クーちゃん」
お姉ちゃんはあっさりと引き下がった。
鬱陶しく絡んできたかと思うとすぐこれだ。まったく調子良いんだから。自分だけ好き勝手言ってくれちゃってさ。
『もっと構ってほしいならそう言いなさいよ』
うっさい。
「ク~ぅ♪ ちゃん♪」
今度はママだ。お菓子で懐柔しようだなんて古典的過ぎるわね。
『そういうのは定石というのよ』
今度はフィリアが意地悪だわ。誰かしら私に意地悪していないといけない決まりでもあるのかしら
『あら失礼。そんなつもりはないわ。仲良くしましょう』
どいつもこいつも。
「はい♪ あ~ん♪」
「あ~ん……もぐもぐ……美味しい」
「うふふ♪ まだまだあるわよ~♪」
……なにこれ。普通に嬉しい。
「あ~ん♪」
「あ~ん」
パクパク。もぐもぐ。ごっくん。
次から次へと供給されるお菓子。
柔らかくて包みこんでくれる温もり。
なんて幸せな一時だろう。英雄も魔王も辞めて引き籠もりになってしまおうかしら。
『悪くないわね。あとは他のフィリアスたちに任せて隠居してしまいましょう』
実際、さっさとお兄ちゃんを次の王にしてしまえばあくせく働く理由もなくなるのよね。
『今まではそれと関係の無いところで働いていたじゃない』
なんなら足引っ張っちゃったわ。世界中から魔獣たちが激減してしまったんですもの。英雄王女の名前に価値がなくなればお兄ちゃんの覇道に万が一だってあるかもだし。
『ないでしょ。既に基盤は万全よ。クーとの婚約はそのキッカケに過ぎないわ。レオン王子は端っからクーに頼り切るつもりなんて無かったのよ』
まあそうなんだけどね。
『いっそ大人しくしている方がレオン王子のためになるわ』
……それはそれでなんだか癪だわ。
『結局クー自身が動きたいのよね。家族のためになることをしたいのよね』
わかってるじゃない。
『フィリアがわからない筈ないでしょ。クーのことだもの』
なら優しくして頂戴。それが私の望みよ。
『あら。フィリアにはそう見えないわ。クーはいつだって自分を奮い立たせてくれる人を一番近くに置いているもの。ユキノだってアヤメだって。だからフィリアもクーを鼓舞するの。それが誰よりクーの側に居る条件だから』
……もう。
「……ねえ、ママ」
「うん♪ どうしたの~♪」
「私がママにもう一度力を与えるわ。だから私と一緒に」
「うん♪ 行くわ♪」
「……本当に良いの? ママは私を英雄にしたくないんじゃなかったの?」
私がアルミディアのために戦うことはもう無いのかもしれない。そういう意味ではママの願いは果たされたのかもしれない。けれど今度は女神が私を利用しようとしている。これでは結局何も変わらないのかもしれない。
「良いのよ。クーちゃんが自分で選んだ道なら」
「……そっか」
私は知っている。私の図書館……城通いをママが快く思っていなかったことを。幼くたって、ママと直接会う機会が少なくたって、伝わってくるものはある。
ママも変わったのかもしれない。力を失って。英雄ではない一人の人間として過ごしたことで。英雄を望む側の気持ちを実感したのかもしれない。或いは全然関係無いのかも。私がママのことを理解していないだけなのかもしれない。
「それにクーちゃん♪ ママとっても強いんだから♪ 魔力がちょっとしかなくてもクーちゃんより強いわよ♪」
自信満々ね。
『本当よ。オフィーリアはあのボロ侍より強いわよ』
……別に驚きはしないわ。
『伊達に英雄と呼ばれてはいないわね』
私はまだまだね。イロイから誰より多く力を貰ったのに。時間停止まで使えるのに。それでもまだ届かないなんて。
『時間停止中にも確実にダメージを与える術を用意しましょう。それで大概の相手よりは強くなるわ』
そういうことじゃないでしょ。強くなるって。
『積み重ねよ。誰もいきなり総合的に強くなったりなんてしないわ。一つ一つ積み重ねた結果として強くなるものよ』
わかった。一つ一つね。やりましょう。先ずはママを超えるところからね。
『ふふ♪ それでこそよ♪ クー♪』




