06-07.告白・続
「ありがとう。クーちゃん。話してくれて」
ママは私を安心させるように笑みを浮かべてから、少しの間考え込んだ。
「……ママもね。話したいことがあるの」
ママがそう切り出すまでに大した時間は掛からなかった。
「ごめんなさい。クーちゃん。ママはクーちゃんを置いて一人で実家に帰ってきたわ。クーちゃんも知っての通りにね」
「……うん」
「……あの時ママね。魔力を失っていたのよ」
「……え?」
「今では多少戻ってきたけれど、当時は到底戦えるような状態ではなかったの」
「なん……で……」
「我が罰を与えたからだよ」
「なん……ですって……?」
「やっぱりそういうことだったのね」
「オフィーリアの犯した罪は看過できないものだった。だから我は力を取り上げた。少しだけ戻してあげたのは身の程を弁えたから。何よりクーちゃんの愛する母親だったから」
「……罪って何よ。ママがいったい何したって言うのよ」
「我の思惑を超えて力を手にしたこと」
「……それで?」
「それだけだよ」
「……は?」
「クーちゃんが成すべきことを代わりに成そうとしたのも罪と言えば罪だ。そっちは未遂に終わったけどね」
「……なにを……言ってるのよ」
「オフィーリアの愛は強すぎた。クーちゃんのために出来ることがあると気付いてしまった。だから力を取り上げた」
「……イカロスのように?」
「そう。まさしくその通り。彼が太陽に近づき過ぎて蝋の翼を溶かされたように。我もオフィーリアの思い上がりをねじ伏せた。神様らしく一方的にね。……だから恨むなら我を恨んでいいんだよ」
……どうしてそこで諦めたような顔なんてするのよ。
「……イロイ。ちゃんと話しなさい。そんな答えでは納得できないわ」
「クーちゃんであってもその先を求めるのは許さないよ。でないと我はクーちゃんの力だって取り上げなくちゃいけなくなるんだからね」
「また秘密にするつもりなのね」
「ごめんね、クーちゃん。悪いとは思ってるんだよ」
……どうしたものかしら。
「ごほっ!?」
腕に力を込めてギリギリと締め上げる。
「そ、そんな……ことしても……話さない……よ……?」
「別に。ちょっと愛情が溢れちゃっただけよ。潔く受け入れなさい」
「し、しかえし……の……つもりなら……喜んで……」
私は更に力を込めていく。イロイと一つになってしまうんじゃないかってくらい、全力で抱きしめ続ける。
「クーちゃん。その辺にしてあげなよ。イロイが吐きそうな顔してるよ」
そのまま全ての秘密を吐いてくれないかしら。
「げほっごほっ……」
力を緩めて解放する。
今度は優しく抱きしめる。
「イロイ。謝りなさい。それでこの場は収めてあげるわ」
「そ……れは……無理だよ。我何も悪いことしてないもん」
「してたじゃない。私の大好きなママを遠ざけておいて、今の今まで知らんぷりしていたじゃない」
「遠ざかったのはオフィーリア自身の意思だもん。我はそこまで口出ししてないもん」
「それでも謝るものよ。今の貴女には神以外の立場もあるのだから。神としての貴女に譲れないものがあるのだとしても、家族としてのイロイにはケジメが必要なのよ」
「……ごめんなさい」
「いいわ。許してあげる」
だからいずれ話しなさい。次こそは全てを。
「ママもそれでいい? イロイの謝罪を受け入れてくれる?」
「待って! それは話が違っぐふっ!?」
ギリギリギリ。
「クーちゃんこそ……ママを許してくれるの……?」
「元々仲直りのために来たのよ。それなのにママったら、私を放ってアヤメとばっかりイチャイチャしてるんだもん」
「……ごめんなさい」
「わかってる。ママも怖かったのよね。どう接していいかわからなかったのよね。それだけ私のことを気にしてくれていたのよね。ありがとう、ママ。大好きよ、ママ」
「クーちゃん……!」
「げふっ!?」
ママはイロイごと私を抱きしめた。力いっぱい抱きしめてくれた。
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「母さん。母さんは何をしようとしていたの? 何かが本来クーちゃんのやるべきことだったんでしょ? 心当たりとかあるんじゃない?」
「ダメだよ! アヤメ! それ聞いちゃったら! もがっ」
ギリギリギリ。
「ナイスクーちゃん。そのまま押さえておいて」
「もう。ダメよ、二人とも。小さい子を虐めるものではないわ」
イロイが小さいのは見た目だけよ。もちろんママもわかってて言ってるんでしょうけど。
「教えて。ママ」
「……やめておくわ。折角クーちゃんと再会出来たのにまた離れ離れになるのは嫌だもの」
「てことは母さんも来てくれるんだね♪」
「もしかしてお姉ちゃん、先に話しちゃったの?」
「あれ? ダメだった?」
こんにゃろう。
そういう所よ。お姉ちゃんはそういう所がダメなのよ。
「イロイ。ママの力を元通りになさい。私たちと一緒に行動するなら必要でしょ」
「それより我に名案がだだだだだ!?」
「返事は『はい』か『イエス』よ」
「ギブギブギブギブ!!」
「クーちゃん。やめなさい」
……仕方ないわね。
「あら。クーちゃんが素直。普段必ず口答えが入るのに」
「お姉ちゃん♪」
「ひぃっ!? ごめんなさい!!」
「まあ。あの可愛いクーちゃんがすっかりやさぐれてしまったわ」
「ママのせいよ。ママが私を置いて行ったからよ」
「もう何度も謝ってるじゃない」
あら。そんな風に開き直るのね。
「まだ具体的な経緯を聞いてなかったわね」
「クーちゃんねちっこい」
「うっさい。お姉ちゃんは黙ってて」
「反抗期だわ~……」
ママもうっさい。
「それで? 力を取り上げられたママはどんな思考を経て私に何も言わずに置いて行ったのかしら? こうなったらとことんまで話してもらうわ」
「そうだそうだ~! ちゃんと話せ~!」
イロイが言えたことじゃないでしょうが。
まったく。ここぞとばかりに。




