記事になる前
ウェブ記者の榊原凛は、佳奈の死を都市伝説の記事にしようとしていた。
匿名掲示板に「死者の動画が次へ届く」という書き込みが三件あり、その一つに佳奈のマンション名が伏字で載っていたからだ。
久瀬は捜査情報を答えなかった。澪も取材を断った。
だが凛は、記事公開前の画面を見せた。そこには佳奈より前に死んだ二人の女性が並んでいた。千葉の会社員と、埼玉の専門学校生。死因も場所も違う。共通するのは、死亡前に差出人不明の映像を周囲へ相談していたことだけだった。
「これを公開すれば、他の受取人が名乗り出るかもしれない」
「同じ数だけ、作り話も届きます」
澪は答えた。
凛は不満そうに画面を閉じた。その直後、未公開の記事に新しい画像が挿入された。
誰も操作していない。
画像は佳奈の部屋だった。動画の六分十一秒、佳奈が振り返る直前の一枚。その隅に、記事を書いている凛の横顔が小さく重なっている。
凛の顔色が変わった。
「私も次ってこと?」
澪は即答しなかった。
映った者が次だと、まだ証明されていない。
希望を装った推測で安心させることも、恐怖を装った推測で縛ることも、同じくらい危険だった。
部屋の外では、誰かの日常が何事もなく続いていた。エレベーターが止まり、配達員が階段を上り、遠くで車の扉が閉まる。そのどの音にも異常はない。異常なのは、死者の時間だけが現在へ届き続けていることだった。
澪は見えた事実と、自分がそう思っただけのことをノートの左右へ分けた。恐怖に理由を与えれば、一晩だけは眠れるかもしれない。だが誤った理由は、次に選ばれた人をもっと危険な場所へ連れていく。だから分からないものは、分からないまま残した。




