父親の拒否
藤代修司は、娘の動画を見せてほしいという申し出を拒んだ。
「警察には話しました。あの子が死んだ、それ以上に何が要るんです」
久瀬は映像の内容を詳しく告げなかった。遺族へ再生を迫る理由はない。澪も、佳奈の最期を手掛かりとしてしか見られなくなりかけた自分を恥じた。
帰ろうとした二人を、修司が呼び止めた。
「動画なら、死ぬ前にも届いていました」
佳奈は三日間、知らない女が映る動画に悩んでいたという。削除しても戻り、機種変更しても新しい端末に入った。修司は迷惑メールだと思い、見るなとだけ言った。
女の名前は知らない。
ただ、佳奈は紙に似顔絵を描いていた。
修司が持ってきた手帳には、短い髪の女性の横顔と、首元の小さなほくろが残されていた。最後のページには、震えた字で一文ある。
《見ていないのに、今日の方が近い》
澪は似顔絵をスマートフォンで撮らなかった。紙のまま久瀬が預かる。
玄関を出る直前、修司が低い声で言った。
「娘の最期を、面白い話にしないでください」
その約束が、この先どんな手掛かりより重くなることを、澪はまだ知らなかった。
澪は見えた事実と、自分がそう思っただけのことをノートの左右へ分けた。恐怖に理由を与えれば、一晩だけは眠れるかもしれない。だが誤った理由は、次に選ばれた人をもっと危険な場所へ連れていく。だから分からないものは、分からないまま残した。
部屋の外では、誰かの日常が何事もなく続いていた。エレベーターが止まり、配達員が階段を上り、遠くで車の扉が閉まる。そのどの音にも異常はない。異常なのは、死者の時間だけが現在へ届き続けていることだった。




