知らない女
佳奈が描いた女性は、千葉で亡くなった会社員、北原麻衣だった。
久瀬が遺族の許可を取り、顔写真と照合した。首元のほくろまで一致する。北原の死亡は佳奈の三日前。その北原も、死の直前に別の人物が映る動画を見ていた可能性がある。
線は一本につながった。
しかし、順番が分かっても止め方は分からない。
凛は記事を公開せず、過去の書き込みを保存する役を引き受けた。修司との約束を聞き、実名も映像も出さないと決めた。
その日の夕方、警察病院の保管庫で異変が起きた。
引きちぎった心電計の紙が、封をした証拠袋の中で増えていた。袋の重量は変わらない。紙だけが細長く折り重なり、床まで届くほど伸びている。
久瀬が袋を開けずに確認すると、連続写真の最後が変わっていた。
以前は病室の澪だった。今は駅のホームに立つ男の背中が写っている。
澪はそのコートを知っていた。
毎朝、同じ車両に乗るだけの見知らぬ通勤客だった。
名前も、勤め先も知らない。
怪異が澪の知人だけを選ぶという小さな期待は、そこで消えた。
澪は見えた事実と、自分がそう思っただけのことをノートの左右へ分けた。恐怖に理由を与えれば、一晩だけは眠れるかもしれない。だが誤った理由は、次に選ばれた人をもっと危険な場所へ連れていく。だから分からないものは、分からないまま残した。
部屋の外では、誰かの日常が何事もなく続いていた。エレベーターが止まり、配達員が階段を上り、遠くで車の扉が閉まる。そのどの音にも異常はない。異常なのは、死者の時間だけが現在へ届き続けていることだった。
澪は見えた事実と、自分がそう思っただけのことをノートの左右へ分けた。恐怖に理由を与えれば、一晩だけは眠れるかもしれない。だが誤った理由は、次に選ばれた人をもっと危険な場所へ連れていく。




