玄関の人数
久瀬は佳奈の死亡記録を取り寄せた。
遺体が見つかったのは自室ではなく、六階の共用廊下。争った跡はなく、鍵も壊れていない。防犯カメラには、午前二時二十四分に部屋を出る佳奈が一人で映っていた。
澪たちが見た動画と時刻は一致した。
ただし、防犯映像の佳奈は部屋を出る直前、誰かを先へ通すように身体を横へずらしていた。
「画面外に人がいた可能性は」
「玄関前は全部入っています」
管理会社の担当者は平面図まで示した。死角はない。人が隠れられる幅もなかった。
久瀬は動画を一コマずつ送り、玄関脇の鏡で止めた。
廊下には佳奈一人しかいない。鏡の中にも佳奈がいる。だが鏡の奥、室内側へ伸びる影が二本あった。
一本は佳奈の足元につながっている。もう一本は、画面の下で途切れていた。
その夜、澪は自宅へ戻らず、母の家へ泊まることにした。
玄関で靴を脱いだとき、壁の姿見に母と自分が映った。二人分の身体、二人分の影。
澪は目をそらした。
母が先に廊下を曲がる。
鏡には、角の向こうへ消えた母と、動けずにいる澪と、誰のものでもない三本目の影だけが残った。
澪は見えた事実と、自分がそう思っただけのことをノートの左右へ分けた。恐怖に理由を与えれば、一晩だけは眠れるかもしれない。だが誤った理由は、次に選ばれた人をもっと危険な場所へ連れていく。だから分からないものは、分からないまま残した。
部屋の外では、誰かの日常が何事もなく続いていた。エレベーターが止まり、配達員が階段を上り、遠くで車の扉が閉まる。そのどの音にも異常はない。異常なのは、死者の時間だけが現在へ届き続けていることだった。




