↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【会津の烈女】 介錯された会津藩士の娘、辺境伯令嬢に拾われる ~薙刀一つで新・娘子隊を作ります~  作者: 真野真名
第五章 半旗の城下 〜パンの匂い、晩夏の遠雷〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/61

第肆拾參話「以蔵の書状」




 同じ頃。


 メビック伯爵の陣が街道の彼方に消えた後の東の平野の一角。


 小さな野営の焚き火の傍らで、以蔵が一人、地面にあぐらを掻いていた。


 彼の傍らに若い勤王党の兵士が一人、控えている。


「――以蔵殿」


「なんじゃ」


「ブロックス将軍への書状、まことに、これでよろしいのですか」


 若い兵士は震える手で、羊皮紙を差し出した。


 以蔵はその羊皮紙を受け取り、焚き火の光に翳した。


 自分の拙い字で書かれた短い文。


 ――『会津の女、生きちょる。次は、貴殿の番ぜよ。以蔵』


 彼は、口の端を僅かに上げた。


「――これでよい」


「以蔵殿、これではあまりにも簡素なご報告に――」


「よい、と言うちょる」


 以蔵は、羊皮紙を丁寧に丸め、封をした。


「ブロックスには、詳細な報告など要らん。あの男は『あの女生きちょる』の一行だけで、全てを悟る」


「――しかし」


「あの男は理論家じゃ」


 以蔵は、焚き火に細い枝を一本投げ込んだ。


「理論家というのは、な。相手の情報が少ないほど興味を持つ。詳しい報告書は、あの男の興味を削ぐだけぜよ」


「はっ……」


「わしゃ、あの男の興味を削ぎとうない」


 以蔵は、口の端だけで笑った。


「あの男が、あの女に興味を持てば持つほど、あの男は、あの女の前で全力で義を振るう。……そして、その全力の義をあの女がどう返すか。それをわしゃ見たい」


「以蔵殿は……」


 若い兵士は、震える声で問うた。


「以蔵殿は、あの異国の女を憎んでおられるのですか、それとも――」


「――憎んじょる」


 以蔵は即答した。


「憎んじょる。今も腹の底で憎んじょる。あの女の、あの理合いの太刀筋、あの澄んだ目、あのこの地で掴んだ居場所――全てを憎んじょる」


「……」


「じゃき、わしゃ、あの女の義が、ブロックスの義に負ける瞬間を、この目で見たい」


「――以蔵殿。それは憎しみなのですか」


「――……」


 以蔵は、しばらく無言で焚き火を見つめていた。


「憎しみであればいいのう」


「――え」


「憎しみであれば、まだ、わしゃあの女と同じ地平に立てちょる。……もし、これが憎しみ以外の何かであったら」


 彼は封をした羊皮紙を、静かに若い兵士に渡した。


「わしゃもう、あの女の隣に立てぬぜよ」


「以蔵、殿」


「行け。ブロックスに届けろ」


 若い兵士は一礼し、馬に跨り東の平野へと駆けていった。


 以蔵は、視線を駆け去る馬の背から、焚き火に戻した。そして、思い出したかのように、傷ついた左肩をそっと押さえた。


「――竹子」


 彼は名を呼んだ。


 自分でもその名の優しい響きに少し驚いた。


「――生きちょれよ」


 焚き火の火の粉が夜の空へとゆっくり昇っていった。


 東の空の地平の彼方で、白い光が瞬いた。


 その光は焚き火より遥かに大きく、静かで、そして冷たかった。







明日までに、第一部完結を目指していたのですが、間に合いませんでした。


慶応4年8月25日

会津の柳橋(涙橋)で娘子隊と政府軍との遭遇戦で、隊長の中野竹子(二十二歳)が討ち死にした日です。

旧暦なので、西暦では1868年10月10日なんですけどね。


次回から【第六章】ブロックス将軍の登場です。




誤字報告ありがとうございます。

誤字以外でも「設定おかしくね?」とかの指摘も併せてよろしくおねがいします。

ブックマーク、評価、感想など頂けるととてもありがたいです。


貴重な時間を使って、読んでくださっている皆様に感謝を。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。