第7話:長い眠りからの目覚めと、交錯する複雑な熱情
お待たせいたしました(^^)
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聖剣が浄化されてから、数日後。
セレスティア・フェルノアは、長い夢を見ていた。
暗くて。
冷たくて。
どこまでも沈んでいく夢。
身体は重く、指先一つ動かせない。
遠くから誰かの声が聞こえる気がした。
――愛している。
何度も。
何度も。
耳元で繰り返される声。
優しくて。
泣きそうで。
どうしてそんな声をするのか、わからなかった。
だって、その声は。
――アルフレッド殿下の声だったから。
ありえない。
そんなはずがない。
だからきっと夢なのだ。
都合のいい幻想。
死の淵で見る最後の願望。
なのに。
唇へ触れる熱だけは、妙にリアルだった。
柔らかくて。
優しくて。
けれど最近は、どこか必死な気配が混じっている。
(……私の夢の中なのに、私の知っている殿下とまるで違うわ)
ぼんやりそんなことを考えた、その時だった。
何かが唇を割って入り込んでくる。
「――っ……!?」
唇から流れ込んでくる熱が、いつもより強い。
胸の奥まで温められるような感覚。
その熱に引き上げられるように、意識が浮上していく。
夢と現実が混濁する中。
苦しさに耐えきれず、セレスティアは反射的に手を動かした。
ぺし、と。
弱々しい音が響く。
叩いたというより、触れたに近い。
重いまぶたがゆっくりと開いた。
そこには弾かれたように顔を上げるアルフレッドがいた。
「セレスティア!!」
その声に、セレスティアの肩が震える。
目の前の男は、ひどくやつれていた。
目の下には濃い隈。
伸びた髪。
薄く残る無精髭。
常に完璧だった第三王子とは思えないほど、憔悴している。
セレスティアは呆然と瞬きをした。
「……殿下?」
夢ではない。
本当に、アルフレッドだった。
しかも。
彼は次の瞬間、泣きそうな顔で笑った。
「起きた……」
掠れた声。
「本当に……目を覚ましてくれた……」
ぽろ、と。
アルフレッドの瞳から涙が零れ落ちる。
その姿に、セレスティアの胸が強く締め付けられた。
(なぜ……)
(どうして、そのようなお顔を……?)
「で、殿下……どうして、ここに……」
声を張ることすらできない。
掠れた小さな声だった。
アルフレッドは、少しだけ目を伏せて答える。
「命の力を送っていた」
「命の力……」
浄化で傷ついた身体を、剣の穢れに染まった乙女の体を癒すための聖剣の主の命の力。
それは、最後の遠征前に発見された文献に記されていた。
そこに記された聖剣の主と乙女の関係。
すでにその時、セレスティアは死の淵にいた。
嫌われたまま生きながらえるより、最後にアルフレッドの、王国の役に立ち、聖剣の乙女として美しく死ねる事に喜びさえも感じた。
だから、アルフレッドの負担になりたくないと言い訳をして、知らせないでほしいと願った。
だが、そんな己の醜い矜持を嘲笑うかのように願いは破られ、生き残ってしまった。
(……なんて惨めなのかしら)
目覚めたばかりで淑女の仮面は被れず、セレスティアは唇を噛み締めた。
「唇を噛むな」
アルフレッドはセレスティアの頬に手を添えると、親指でそっと唇を開かせる。
「……そんな顔をしないでくれ」
アルフレッドは懇願した。
「俺はお前が生きていてくれて嬉しい」
「でも、私は……」
口を開こうとした瞬間。
公爵夫妻と妹、侍女たちが部屋へ駆け込んできた。
「セレスティア!」
「お姉様……!」
公爵夫人は涙を流しながら寝台へ駆け寄り、妹も泣き崩れる。
セレスティアは訳も分からぬまま家族に囲まれた。
そうしてようやく、自分が半年近く眠り続けていたことを知る。
そして。
アルフレッドが、毎日公爵家へ通っていたことを。
「……毎日、ですの?」
「はい!」
侍女が勢いよく頷く。
「それはもう、一日も欠かさず」
セレスティアの顔が一気に赤くなった。
「なっ……!」
「あと、……大変熱心に……」
「もう結構ですわ!」
頬が熱い。
赤くなりたくなくても勝手に顔に熱がこもる。
一方。
アルフレッドは、どこか晴れやかな顔をしていた。
その姿を見て、セレスティアはぎゅっとシーツを握る。
なぜ。
どうして。
あれほど私を拒絶していたはずなのに。
アルフレッドは、まっすぐ彼女を見つめ返した。
逃げることなく。
誤魔化すことなく。
そして。
「俺はもう二度と、間違えない」
静かな声だった。
けれど、その瞳には決意が宿っていた。
セレスティアの心臓が、大きく跳ねた。
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