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嫌われたまま死ぬはずだった聖剣の乙女ですが、後悔した第三王子の口づけで目覚めました  作者: アキラ・モーリング


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番外編2 後編 セレスティアの社交界復帰

お待たせしました!

番外編2の後半です。


 会場のざわめきは、時間が経つほど大きくなっていた。


 


 原因はもちろん、会場の中央にいる二人である。


 


「やはり仲が良いのでは……」


 


「いえ、でも婚約したとは聞いておりませんわ」


 


「では、どういう関係なのです?」


 


 誰も答えられない。


 


 だが。


 


 少なくとも仲違いしているようには見えなかった。


 


 その頃。


 


 当の本人たちはそんな周囲の様子など知らずにいた。


 


「アルフレッド様」


 


「なんだ」


 


「離してください」


 


 セレスティアが小声で訴える。


 


 夜会が始まってからというもの、アルフレッドは一度も彼女の傍を離れていない。


 


 というより。


 


 腰に回った手を離してくれない。


 


「なぜだ」


 


「皆様が見ています」


 


「見ているな」


 


「でしたら」


 


「問題ない」


 


「あります」


 


 即答だった。


 


 だがアルフレッドは少しも動じない。


 


「疲れたらどうする」


 


「疲れておりません」


 


「疲れる前に休ませるのが役目だ」


 


「誰のですか」


 


「俺の」


 


 真顔で言い切られた。


 


 セレスティアは額を押さえたくなる。


 


「お父様とお母様は過保護なのです」


 


「知っている」


 


「だからアルフレッド様まで真に受けなくても……」


 


「真に受ける」


 


「なぜですか」


 


「正しいからだ」


 


 話にならない。


 


 周囲から見れば、二人は体と顔を寄せ合って親密に話しているようにしか見えなかった。


 


 令嬢たちが赤くなる。


 


 伯爵たちが視線を逸らす。


 


 護衛騎士ですら微妙な顔をしている。


 


 だが。


 


 慣れ親しんだ距離感がおかしい事に、本人たちだけが気付いていない。


 


 特にアルフレッドは。


 


 その時だった。


 


「第三王子殿下」


 


 穏やかな声が響く。


 


 二人が振り返る。


 


 そこには白髪の老侯爵が立っていた。


 


 王国でも指折りの重鎮である。


 


 侯爵はまず丁寧に一礼した。


 


「本日はお招きいただき光栄に存じます」


 


「ああ」


 


 アルフレッドが頷く。


 


 続いて侯爵はセレスティアへ向き直った。


 


「フェルノア公爵令嬢」


 


「ご回復、誠におめでとうございます」


 


「ありがとうございます」


 


 セレスティアも礼を返す。


 


 そこで侯爵は小さく微笑んだ。


 


「無礼を承知で、一つだけお尋ねしてもよろしいでしょうか」


 


 周囲の空気が変わる。


 


 誰もが察した。


 


 侯爵は自分たちを代表して聞こうとしているのだと。


 


「構わない」


 


 アルフレッドが答える。


 


 侯爵は再び一礼してから口を開いた。


 


「お二人は、現在どのようなご関係なのでしょうか」


 


 沈黙。


 


 一瞬で会場中の空気が止まった。


 


 セレスティアの肩が跳ねる。


 


 来た。


 


 ついに来てしまった。


 


 当然の疑問だ。


 


 むしろ今まで誰も聞かなかった方がおかしい。


 


「そ、それは……」


 


 言葉に詰まる。


 


 婚約はしていない。


 


 だが他人でもない。


 


 恋人と言うのも何だか恥ずかしい。


 


 どう答えればいいのだろう。


 


 セレスティアが困っていると。


 


 隣のアルフレッドが静かに口を開いた。


 


「確かに曖昧だな」


 


「アルフレッド様?」


 


 アルフレッドは少しだけ考えるように目を伏せた。


 


 それから。


 


 ふっと息を吐く。


 


「ならば決めよう」


 


「……え?」


 


 嫌な予感がした。


 


 とても。


 


 ものすごく。


 


 嫌な予感が。


 


 次の瞬間。


 


 アルフレッドが片膝をついた。


 


 会場が凍った。


 


「なっ……」


 


「え?」


 


「は?」


 


 誰かの声が漏れる。


 


 第三王子。


 


 救国の英雄。


 


 その人物が。


 


 社交界のど真ん中で。


 


 片膝をついている。


 


 しかも相手は。


 


 目の前で真っ赤になって固まっているセレスティアだ。


 


「アルフレッド様!?」


 


「セレスティア」


 


 呼ばれる。


 


 逃げられない。


 


 その碧眼は真っ直ぐだった。


 


 迷いなど一つもない。


 


「俺は君を愛している」


 


 会場のあちこちで息を呑む音がした。


 


「学院で間違えた」


 


「傷つけた」


 


「後悔しない日はない」


 


 セレスティアの瞳が揺れる。


 


 アルフレッドは続けた。


 


「だが、だからこそ誓う」


 


「二度と君を手放さない」


 


 その言葉は重かった。


 


 誰よりも。


 


 本人自身がその意味を知っているから。


 


「セレスティア・フェルノア」


 


 差し出される手。


 


「俺と共に歩んでほしい」


 


「生涯をかけて君を守る」


 


 静まり返った会場の中。


 


 セレスティアの視界だけが滲んでいた。


 


 昔。


 


 もう駄目だと思った。


 


 嫌われたと思った。


 


 届かないと思った。


 


 それでも。


 


 好きだった。


 


 ずっと。


 


 どうしようもなく。


 


 好きだった。


 


 だから。


 


 返事は決まっていた。


 


「……はい」


 


 震える声。


 


「喜んで」


 


 その瞬間。


 


 広間が大きな拍手に包まれた。


 


 貴族たちが立ち上がる。


 


 令嬢たちは涙ぐんでいる。


 


 侯爵は満足そうに頷いた。


 


 アルフレッドが立ち上がる。


 


 そして。


 


 当然のように。


 


 セレスティアの腰を抱いた。


 


「アルフレッド様!」


 


「なんだ」


 


「皆様が見ています!」


 


「知っている」


 


「でしたら離してください!」


 


「断る」


 


 即答だった。


 


 会場中から笑い声が上がる。


 


 セレスティアは真っ赤になる。


 


 だが。


 


 アルフレッドは少しも離さなかった。


 


 その腕は驚くほど優しく。


 


 けれど決して逃がす気はないように。


 


 しっかりと彼女を支えている。


 


 そんな二人を見ながら、ある令嬢がぽつりと呟いた。


 


「仲が良いどころではありませんでしたわね……」


 


「ええ」


 


 隣の令嬢が頷く。


 


「殿下、夢中ですもの」


 


 誰も否定できなかった。


 


 王国中が知ることになる。


 


 聖剣の主と乙女は。


 


 ただ運命に選ばれた二人ではない。


 


 互いを愛し。


 


 互いを想い。


 


 ようやく結ばれた恋人同士なのだと。


 


 そしてアルフレッドが、少々手遅れなほど婚約者に夢中であることもまた。


 


 この日を境に、社交界の新たな常識となったのだった。

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