番外編2 前半 セレスティアの社交界復帰
本編終了後、セレスティアが社交界に復帰した日のお話です。
少し長くなったので、前後編になります。
後半は後日アップします(^^)
王都の大広間は、華やかな音楽と人々の話し声に満ちていた。
春の夜会。
貴族たちが集うその場には、ある人物の復帰を一目見ようと多くの視線が集まっている。
「今日、出席なさるそうよ」
「フェルノア嬢が?」
「ええ。体調もだいぶ回復されたとか」
令嬢たちが小声で囁き合う。
セレスティア・フェルノア。
聖剣の乙女。
魔王討伐を支えた少女。
その名を知らぬ者はいない。
だが。
彼女について語られる話題はもう一つあった。
「でも、不思議ですわ」
「何がですの?」
「第三王子殿下とのことです」
その言葉に周囲も頷いた。
聖剣の主と乙女。
共に王国を救った二人。
それは誰もが知っている。
だが、それ以上の関係なのかと問われれば分からない。
「学院時代のお話は有名ですものね」
「殿下はずいぶん冷たくされていたとか」
「聖剣の儀式でもお二人で話している姿を見たことがありませんでしたわ……」
「主と乙女として、儀式は淡々とこなしていらっしゃいましたけど…」
「ええ」
「お互い大人ですもの」
「私情は持ち込まなかったのではなくて?」
そんな声があちこちから聞こえる。
魔王討伐後の聖剣返還の儀。
凱旋式。
祝賀会。
二人が同じ場に立つ姿は何度も見られた。
しかし。
そこに親しげな空気はなかった。
「実際のところ、どうなのかしら」
「昔は第三王子殿下の婚約者筆頭でしたけど……」
「辞退されてからは、もうそのような関係ではないのでは?」
誰も確かな答えを持っていない。
その時だった。
大広間の入口付近がざわめく。
控えていた侍従が一歩前へ進み出た。
高らかな声が響く。
「アルフレッド・レオンハルト・アルヴィス第三王子殿下」
一瞬で会場が静まり返る。
「ならびに、セレスティア・フェルノア公爵令嬢、ご入場です」
重厚な扉が開かれた。
まず姿を現したのはアルフレッドだった。
その腕には、一人の令嬢が寄り添っている。
セレスティア・フェルノア。
淡い青のドレスを纏い、アルフレッドの腕にそっと手を添えていた。
王族の正式なエスコート。
それだけで十分な意味を持つ。
会場の視線が一斉に集まった。
「まさか……」
「殿下のパートナーとして?」
誰かが息を呑む。
二人はゆっくりと階段を下りていく。
自然な距離。
だが、その距離の近さは決して他人のものではなかった。
学院時代を知る者ほど、その光景に目を疑う。
あの第三王子が。
誰よりも近くに立たせているのが、セレスティアなのだから。
「セレスティア様だわ……」
「本当にお綺麗……」
感嘆の声が漏れる。
大広間へ足を踏み入れた直後。
セレスティアが小さく息をはく。
「どうした」
「少し、緊張してしまいます」
社交界への復帰は久しぶりだ。
無理もない。
するとアルフレッドは即座に答えた。
「疲れたら言え」
「まだ来たばかりです」
「それでもだ」
「大丈夫です」
「大丈夫と言う者ほど信用できない」
「それは失礼ではありませんか?」
セレスティアが思わず笑う。
アルフレッドは真顔だった。
「公爵にも公爵夫人にも頼まれている」
「またそれを仰るのですか」
「事実だ」
「少し歩くだけです」
「少し歩いて倒れた前科がある」
セレスティアが言葉に詰まった。
反論できない。
会場のあちこちで空気が止まる。
なんだろう。
思っていた雰囲気と違う。
かなり違う。
ものすごく違う。
アルフレッドは続ける。
「無理はするな」
「しておりません」
「……ならいい」
「信用していない顔です」
「信用していない」
「もう」
困ったように笑うセレスティア。
その様子を見つめるアルフレッドの眼差しは、驚くほど柔らかかった。
学院時代を知る者ほど息を呑む。
あの第三王子だ。
誰に対しても礼節はあった。
だが距離もあった。
女性に対しても特別扱いなどしない。
むしろ近寄りがたいほどだった。
そのアルフレッドが。
今は。
一人の女性から目を離せずにいる。
「本当に同じ殿下かしら……」
令嬢の呟きに誰も反論できなかった。
そんな中。
一人の若い伯爵令息が意を決して近づいてくる。
「フェルノア嬢」
丁寧な礼。
「ご回復おめでとうございます」
「ありがとうございます」
セレスティアが微笑む。
その瞬間だった。
アルフレッドが自然な動作で一歩横へ移動する。
ごく自然に。
本当にごく自然に。
セレスティアとの距離を詰めた。
誰も文句を言えない程度に。
しかし確実に。
令息の視界に入る位置へ。
伯爵令息が固まる。
アルフレッドは平然としていた。
ただ立っているだけだ。
だが。
なぜだろう。
ものすごく邪魔である。
そして本人は全くその自覚がなさそうだった。
会場の貴族たちが察し始める。
ああ。
なるほど。
これは。
仲が悪いのではない。
むしろ――
逆だ。
その時。
再び会場のあちこちでざわめきが広がり始めていた。
誰もが同じ疑問を抱いていた。
聖剣の主と乙女。
果たしてこの二人は。
今、どのような関係なのだろうか。
「面白い!」と思ってくださった方は、ページ下部にある【ブックマーク登録】や、【星(☆☆☆☆☆)】での評価で応援していただけると、執筆の大きな励みになります!




