番外編3 娘が生まれた日
番外編最終話です(^^)
産声が響いた。
それは小さく。
けれど力強い声だった。
「おめでとうございます!」
助産師の明るい声が部屋に広がる。
「元気な女の子ですよ」
張り詰めていた空気が一気に緩んだ。
アルフレッドはようやく息を吐く。
どれほど力が入っていたのか、自分でも分からない。
気付けば手のひらは汗で濡れていた。
「セレス」
寝台へ駆け寄る。
セレスティアは疲れ切った様子だったが、穏やかに微笑んでいた。
「母子共に、無事ですよ」
先にそう言われる。
まるで何を心配していたのか見透かされたようだった。
「……ああ」
それしか言えない。
喉の奥が詰まっていた。
やがて助産師が小さな赤子を抱いてくる。
「殿下」
差し出される。
恐る恐る腕を伸ばした。
戦場では何万の兵を率いた。
魔王とも戦った。
だが今の方がよほど緊張する。
腕の中へ収まった赤子は驚くほど小さかった。
ふわりとした金色の髪。
澄んだ碧眼。
どちらに似たのかなど考えるまでもない。
セレスティアと同じ金髪。
自分と同じ碧眼。
まるで奇跡を形にしたような存在だった。
「可愛いでしょう?」
寝台から声が届く。
アルフレッドは答えない。
答えられなかった。
「アルフレッド様?」
返事がない。
不思議に思ったセレスティアが首を傾げる。
「アルフレッド様?」
そこでようやく気付いた。
アルフレッドの肩が小さく震えている。
俯いている。
そして。
ぽたり。
一滴の雫が赤子を抱く腕へ落ちた。
「……アルフレッド様?」
セレスティアが目を見開く。
泣いていた。
アルフレッドが。
静かに。
声もなく。
泣いていた。
セレスティアは呆然とする。
彼が涙を流す姿などほとんど見たことがない。
だから何が起きたのか分からなかった。
「どうされたのですか」
慌てて尋ねる。
するとアルフレッドは娘を抱いたまま、小さく呟いた。
「……よかった」
「え?」
「本当に」
声が震えていた。
「よかった」
アルフレッドは赤子を見る。
それから。
寝台の上のセレスティアを見る。
その碧眼が滲んでいた。
「二人とも無事で」
その瞬間。
セレスティアは言葉を失った。
アルフレッドの気持ちがわかったからだ。
あの日。
魔王討伐の最後の遠征の日。
自分は死を覚悟していた。
聖剣の乙女として命を削り。
静かに消えていくはずだった。
アルフレッドもまた、その未来を見た。
目の前で。
手の届く場所で。
失う未来を見たのだ。
だから。
怖かったのだろう。
どこかで。
失うのではないかと。
幸せが壊れるのではないかと。
ずっと。
ずっと。
心の奥で。
アルフレッドは娘を抱きしめるように腕へ力を込めた。
それから静かに微笑む。
泣きながら。
どこまでも優しい顔で。
「ありがとう、セレス」
その言葉に。
セレスティアもまた涙を零したのだった。
みんな生きててよかった(^^)
これで本当にハッピーエンドで、おしまいです。
番外編まで見てくださった皆様、ありがとうございました!
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