第10話:終わりのない追走の誓いと、永遠に紡がれる愛の伝説
最終話です!
「君はまだ俺を想っている」
ちゅ、と。
アルフレッドは、絡めたセレスティアの指先へ、ごく自然に口づけを落とした。
あまりにも迷いのないその行動に、セレスティアは一瞬で固まる。
「な……っ」
頬が一気に熱を持つ。
対するアルフレッドは、まるで当然の事実を述べるかのように真剣な表情のままだった。
「文献に書かれていただろう」
淡々とした声。
「乙女の浄化は、“主を想う力”によって強くなる」
セレスティアの呼吸が止まる。
「君は、あれほど傷ついても……俺を想い続けていた」
「そ、それは……臣下として王族に尽くすのは当然のことで……」
必死に否定しようとする声は、どこか弱々しい。
だがアルフレッドは、静かに首を振った。
あれは臣下の忠誠などではなかった。
聖剣の主として、確かに感じ取っていた。
――もっと深いものだ。
ベッド脇の椅子に座ったまま、アルフレッドがわずかに身を寄せた。
距離が近い。
呼吸の気配がわかるほどに。
逃げようと思えば逃げられるはずなのに、身体が動かない。
「俺は、もう迷わない」
碧眼が、すぐ目の前にある。
「もう間違えない」
また、距離が縮む。
言葉ではなく、空気そのものが熱を帯びていく。
「諦めるつもりもない」
その一言で、セレスティアの胸が強く跳ねた。
この距離で見上げられることに慣れていない。
いや、本当はずっと、慣れてはいけない距離だったのだ。
アルフレッドはふと、わずかに表情をやわらげる。
「昔は、君が俺を追いかけてくれていただろう?」
「い、いつの話ですか……!」
反射的に否定する声が裏返る。
その隙を埋めるように、アルフレッドはさらにわずかに身を寄せた。
「今度は俺の番だ」
その言葉で、セレスティアの思考が止まる。
逃げたいのに、逃げられない。
ベッドの上という逃げ場のない空間で、距離だけが静かに削られていく。
アルフレッドは穏やかな声で言った。
「嫌なら逃げろ」
「……え?」
「叩いてもいい」
低く静かな声。
「本当に嫌なら、全力で俺から離れろ」
その言葉に、セレスティアの瞳が揺れる。
アルフレッドは、絡めた指とは逆の手をそっと伸ばし、頬に触れた。
確かめるように。
壊れ物を扱うように。
「逃げないのなら……期待する」
その瞬間。
アルフレッドが――
最後の距離を詰めた。
息が触れる。
「セレスティア」
甘く名前を呼ばれた瞬間、胸の奥が大きく揺れた。
そして。
唇が重なる。
触れるだけの、静かな口づけ。
すぐに離れたあとも、そこに余韻だけが残る。
「で、殿下……んっ」
「昔のように名前を呼んでくれ。アルフレッド、と」
甘く懇願するような声。
「セレス」
愛おしそうに呼ばれ。
「ア、アルフ…、レッド、さ、…んんっ」
今度は確かめるように。
逃げ場をなくすように、重ねられる。
文献に記された“命の力を注ぐ行為”でもない。
浄化のための義務でもない。
ただ。
目の前の温度から、もう目を逸らせなかった。
(私は……)
ふさわしくない。
そう思っていたはずなのに。
その思考ごと、やわらかく溶かされていく。
熱に触れるたびに形を失っていく。
考えようとすればするほど、思考がほどけていく。
ごちゃごちゃと絡まっていた迷いは、もう輪郭すら保てなかった。
気づけば、もう逃げたいとは思わなかった。
ただ、この距離が――
心地いい。
セレスティアは抗うことをやめていた。
その温度に、静かに身を委ねるように。
◇◇◇
それから半年。
セレスティアは少しずつ体力を取り戻し、社交界へ復帰していった。
その隣には、常にアルフレッドの姿があった。
さらに一年後。
王都は盛大な祝福に包まれる。
第三王子アルフレッドと、フェルノア公爵令嬢セレスティアの婚礼の日である。
遠回りをした。
たくさん傷ついた。
たくさん泣いた。
けれど――
そのすべてが、今ここへ続いている。
そして後に、この物語は語られる。
聖剣の主と聖剣の乙女の物語として。
愛の伝説として。
――世界を救った二人の名は、永遠に語り継がれることとなる。
最後までお付き合いいただきありがとうございます!
次の新しいお話も書き始めているので、近いうちにアップいたします(^^)
「面白い!」と思ってくださった方は、ページ下部にある【ブックマーク登録】や、【星(☆☆☆☆☆)】での評価で応援していただけると、執筆の大きな励みになります!




