↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/61

#6 小屋の中、疑問と懇願

「さ、入るといい。といっても、もてなせるような物はあまりないのだが……」


「いえ、この森の中で安全地帯に留まれるだけでも本当にありがたいです」


「お邪魔致します」




 ディナル、ルーナがプヴォロと鉢合わせてしまった場所から歩いておよそ一時間。やって来たまるで別世界であるかのような湖のほとりに建っている巨木に手を加えて作られた小屋が、今のミシャリーゼの家だ。


 中にあるのは、必要最低限の家具。

 テーブル、椅子、戸棚……全てが木製で、尚且つミシャリーゼが作った代物。王城のそれに慣れている者達にとっては少々不格好なものであったが、こんな環境ではその全てが輝いて見えた。


 書物は十数冊程度しかない。そしてそのどれもが、ディナルが十年前にも目にしたことのあるタイトル。こんな森の中には当然書店なども存在していないし、彼女の立場上森の外へ出て買いに行くわけにもいかない。きっと、ゼルトースから追放される前に持ち出した当時と、ラインナップは変わっていない。


 そして何よりも彼女の家の中に入った二人が驚いたのは、そこにあった数々の見たことない品々。

 淡い光を放ち続けている石、木からミシャリーゼが作ったのであろう荒い作りの厚紙に木炭で記された夥(おびた)しい量の式。それら全て――錬金術に関するもの。


「……よく見たら奥の棚、全部同じようなものですね……」


「まぁ、あれから十年も経てばなぁ。他にやることも無いし、やりたかった研究もどんどん進んだ……おかげで私ももう二十九。……まったく、どこぞの大佐と同い年になってしまった」


 突然訳の分からないことを言いだすのは変わらないまま、それでもふふっと笑みを浮かべてミシャリーゼはやれやれと首を横に振りながら、いつの間にか手慣れた様子で紅茶の用意を済ませていた。


 嗅いだことのない、それでも心を落ち着かせてくれるような良い香りが小屋の中に漂い、心身共に疲弊していたディナルとリーナの顔色も徐々に回復していく。


「粗茶ではあるが、妖精の加護を受けた特別な紅茶だ。それ飲んで寝ればある程度は回復する」


 ミシャリーゼからカップの乗ったソーサーを受け取り、二人はそれに迷うことなく口を付ける。本来は何かが入っているのではないかと怪しむべきではあるだろうが、そもそも彼女に助けられていなければ、この場所にやって来ることすら叶わなかったのだ。

 わざわざ助けておいて何かすることもきっと無いだろうとその液体を口に含んでみれば、鼻から抜けていく香りがなんとも心地良い。




「本当に、ありがとうございます。ルーロ殿がいなければ、私達はきっと、あの場で……」

 

 そう話しながら、リーナは頭の中で最悪の未来を想像し、身が震える。

 自分がどうにかなるのは構わない。だがそれでも、仕える主に何かあった時、彼女は耐えられる気がしなかったのだ。


「――さて、じゃあそろそろ聞かせてもらおうか。……何故、この森に?」


 礼など構わない。それよりも、何故ディナル達が妖精の樹海へと足を踏み入れたのか……絶対にあり得ないはずのそれが実際に現実となった理由が、彼女は知りたくてしょうがなかったのだ。


「……国から、追放されてしまったのです。ルーロ殿……貴方と、同じように――――」




 ディナルはミシャリーゼに、起こった全てを語った。ゆっくりと、時間をかけて。

 その間、何杯の紅茶を飲み干したのか分からない。それほどの時間王子は喋り続け、従者は補足しつつ共に自分の視点にて物を言う。その全てを、聞き手であるミシャリーゼは黙って頭の中に入れ続けた。


 ミシャリーゼが追放されてから今日に至るまでのおよそ十年。大きく動いた世界の情勢や、崩れ始めている各国の力のバランス。国王ドルムの死と、新王フォルドの新たなる政策……戦力よりも血筋、それによる更なる結束を図ろうとする兄への不満と怒り、失望――――




「……む? ちょっと待て、その話……何かおかしいぞ?」


 そこで、話を聞いていたミシャリーゼはある疑問を抱く。


「えっ? ……えぇ、確かに兄上は訳の分からぬ事を……」


「そこじゃない。いやそこもだが……なんであのクソ王子は、私がこの森の中で生きている事を知っているんだ?」


「いやクソって」


 リーナのボソッと放たれたツッコミを見事に流しつつ、ミシャリーゼは話を途切れさせない。


「私がこの樹海に入ってからの十年間、他にこの小屋の近くにまで辿り着くことが出来た人間は一人もいない。私の生死を確認しようと来たのであろう国の物好きも、お前たちがいた場所よりも更に手前でプヴォロや他の猛獣に殺されている」


 つまり、ミシャリーゼがこの森の中で生きていることを、フォルドが知っているわけないのだ。彼女にはそれが、あまりにも不可解なものに思えた。


「索敵魔法や、大魔法士が鳥などを介して使える千里眼というものがあります。そういった類の魔法で知ったのでは?」


「うーん、嬢ちゃんの言うそれもたしかにいい線ではあるが……ここらは樹海を流れる力に覆われている。人間の魔法なんて、阻害されてしまうほどのな。それは二人も、なんとなく感じているだろう?」


 リーナの意見を、否定せずとも正としない。そして続くミシャリーゼの問いかけに、二人はこの森に入ってから感じていた違和感の正体にようやっと辿り着いたのだ。




 プヴォロ……あの大熊との戦いにて、ディナルは思うように体を動かすことができなかった。リーナも、応戦できるほどの魔力は持たぬが、彼同様に魔力によって己の身体強化程度であれば可能だ。

 体を巡る血の流れと共に魔力を流すイメージによって実現させるそれであるが、先ほどに至ってはイメージこそすれど、魔力を思うように扱う事さえ叶わなかった。




「……そうだったのか」


「魔力が少ない者は、魔法を発動する事すら叶わないのですね……」


「いや、それの強弱はさほど関係ない。森の環境に慣れれば魔法も普通に使えるしな。……まぁ、魔力量が少なかった事には感謝するべきかもしれんが」


「と、言いますと?」


「魔力に恵まれた者は、この樹海の力に対し拒絶反応を起こすんだ。まともに動けなくなる程度で済めばいいが、最悪の場合は命を落とす……らしい。私はそもそも生まれた時から身体強化出来るほどの魔力すら無かったから、なんとも言えんが」


 ほんの少しばかりの自虐的な笑みを浮かべつつも、ミシャリーゼはそこで自分のティーカップに初めて口をつけた――――ところでガタッと大きな音と一緒に立ち上がったのが、ディナルであった。




「……ミシャリーゼ・ルーロ殿‼︎」


「うおっ、どうした急にフルネームで」






「どうか、お願いします……私を強くしてほしい――――弟子に、していただきたい‼︎」


「……はぁ?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。