#59 知らしめる力
「……ミシャリーゼさん、ここは私に任せてくれませんか?」
「む?」
一瞬黙り込んだや否や、次にはそのようなことを言い出すラミア。
目の前に突如現れた老人は、彼女と共にククノチシアを強い集落へと変えてきた里の重要人物。長老をはじめとして、皆から期待と信頼を寄せられていた者……であるはずなのだ。
それがこんなどこかも分からぬような場所にて、ストルグは敵意むき出しで皆の前に立ちはだかった……その事実だけが、彼女を奮い立たせる。
「何故この方が今になって現れたのかは知りませんが……もし本当にストルグ殿が敵であるならば……私がケリをつけなければなりません……!」
そう言いながら、ラミアは自身の腰に収めていた短刀と鞭を抜き握り締め、ストルグとそれが使役するガーディアンに対し構え――――その瞬間、彼女の纏うオーラがこれまでとは別物の質へと昇華する。
言われるまでもない、数多の戦いを乗り越えて来たことが嫌というほどに理解できる立ち振る舞い。ただ立ち構えるだけで、誰の目から見てもそれが分かるのが強者である何よりの証明。
他の理解は己が誇りとなり、己が誇りは更なる成長へ。成長は確固たる力へ。力は敵を穿つための刃となる。
「さぁ、早く!」
「……皆、今の内に奥へ進むぞ」
「っ……でも、ラミアが――」
「こいつなら心配ない! それよか、今このタイミングで敵が出てきたことには、多分何かしらの意味がある……例えば――――時間稼ぎ! 私達がこんなに早くここに来るのを想定してなくて、迎え撃つ準備が出来てないとかな……!」
「「ッ……!!」」
そんなミシャリーゼの言葉に、ディナルとリーナがハッ、とした表情を浮かべる。
確かに、こんな何もない場所で敵が突然奇襲を仕掛けて来るだろうか? 罠の類が壁や床に埋め込まれていたとしても、ミシャリーゼには通用しない……かと言ってただ突っ込んでくるにしても、この光る洞窟以前……本当に何もなかった通路にでも潜み、不意打ちを仕掛ければよかったのではないのか。
あの口ぶりだと、向こうだって誰かが自分達のテリトリーにやって来て敵対するとしたら、まず間違いなくミシャリーゼであることは分かっている様子だった。ならば相応の対抗策でも事前に考えておけばいいのに、そんな小細工一切なしで突っかかってきたのだ。
「ならば、今は絶好のチャンス! 二次被害を発生させられるよりも前に、本丸を叩けるチャンスが巡って来た……!! これ以上、死人を出さずに済むんだよ……!!」
二人はストルグという人物の強さを知っているわけではないが、それでもミシャリーゼが目の前の者に敗れる未来など、到底想像できぬもの。それが見たところ策なしで襲ってきたのだから、ミシャリーゼの予測にも多少信憑性がある。
「んじゃあラミア、ここは頼んだぞ!」
「了解ですっ! ……さて、と」
「そう簡単に行かせるものか……! ゆけっ、ジオレフィスよ!!」
直後、ストルグは己が使役するガーディアンに命令を下す。
主の魔力に呼応するように駆動するその体は、ブラグロリネラとは異なり確かな実体を有する。この洞窟に存在する希少金属を惜しみなく使って作られたボディは、頑強かつ強靭。パワーとしなやかさを両立させた一級品であるのだ。
しかしながら、結果としてそのジオレフィスなる鋼鉄の僕は、メインターゲットであるミシャリーゼの身を阻むことが出来なかった。彼女と共に行動し、この場を託された存在によって、自分の方が使命遂行への道を閉ざされてしまうこととなる。
「馬鹿な……若造が我が傑作の膂力を上回ることなどあり得ぬ……!!」
瞬く間にジオレフィスの体へと巻き付いたラミアの鞭が、対象の行動を阻害し、動きを止める。利き腕ではない左にてそれをやってのけた彼女の持つ力に、ストルグは次なる命令を下すでもなく、ただ驚愕することしか叶わなかった。
「私も、ただ遊んで暮らしてきたわけじゃない……里の誰よりも鍛錬し、そして里で一番の強さを手に入れたの……長老の七光りだなんて、思わないでよね……!!」
そうしてラミアから発せられたのは、明確な覇気。敵を確実に仕留めんとする、強者の威圧。ガーディアンに頼るばかりで己はまともに実戦経験を積んでいない技術者は、それに気圧される。
刹那敵を縛り張った鞭の柄を、ラミアは己が腕力全てを費やして引いた。ガーディアンからはミシミシという音が鳴り、そのまま破壊まではいかぬとも、一トンは優に超えるであろうその巨体に膝をつかせることに成功したのだ。
ジオレフィス側も主の命令待たずとも抵抗を試みるが、それも空しく動けぬまま。行動不可の原因たるもの――血管浮き出るまでに力の込められたラミアの腕を、ただただ見つめるばかりであった。
「だが、貴様の戦闘能力は把握している……そして貴様こそ、このジオレフィス一体だけが敵であると思うなよ……!! 共に我が傑作二の手、三の手となるガーディアンが、お前を屠るまで襲い続けるぞ……!!」
「だったらさっさと全部出してよね。こんなところで、足止めを食らい続けてるわけにもいかないの!」




