#55 不器用な相棒
「すごいなこの場所。元は洞窟で、それを改装したんだろうが……壁の至る場所で希少金属が埋まってる……! ちょっと削って貰っとくか」
緊張感が無いのは分かっていたが、よもやこれほどまではと思っていなかった皆は、そんな彼女を信用こそしているもののそれによって少しの不安が生まれてしまう。
転移門結晶を越えて、自爆する魔物の群れによる罠を回避し、先へ進むことおよそ十分ほど。早歩きで整備された回廊……さながらダンジョンのようなその場所をミシャリーゼ一行は急ぎ足で進んでいた。
そして道中、敵地へと乗り込むことに成功して魔動レーダーが必要なくなったのをいいことに、ミシャリーゼはレーダーの中身をプラスチックからその希少金属とやらに変更。同じく壁の中に埋まっているそれらを見つけては、楽しそうにどこから取り出したのか……それとも錬成したのかも分からないハンマーを片手に掘り起こし、懐にしまっている。
『……一応聞いておくけど……ミシャリーゼ貴方、今晩事を終えられなかったら自分を煮るなり焼くなり好きにしろって言ってたわよね? しかもディナルとリーナも巻き込んで』
「もちろんそのつもりだ」
『外ではもうとっくに陽が沈んでるの、分かってるのよね?』
「当然」
『…………』
焦りもなければ、油断も隙もない。実際の行動は完全にふざけているようにしか見えないというのに、その眼差しは真剣そのもの。ここまで心の奥底が読めない存在は本当に見たことがない……そんな、どこか複雑な心境を抱きはするものの、今回は当の本人以外の命がかかっていると言っても過言ではないのだ。
『……流石に、契約は取り消しなさい。今回は事が大き過ぎる……一晩で解決なんて、幾ら何でも無謀すぎるわ。せめて、期間を伸ばすとかーー』
「私が己と他者との間に交わす契約は絶対だ。命よりも重いそれの内容を軽々と変更なんて出来ない」
即答であった。ここから先、敵地の奥までどれほどの距離があるかどうかも分からない……そもそもククノチシアを襲った犯人を捕まえて今回の一件を解決できるのかも怪しいところだ。
『出来るかどうかも分からないのに、貴方はあの子達の命までかけようとしているのよ……! 一ヶ月前、二人と交わした契約を忘れたとは言わせないわよ!』
対価は求めない。二人が樹海にいる間、二人の命は必ず守る。守らなければ、自ら命を断つ。
実際にミシャリーゼが、妖精の樹海へと足を踏み入れたディナルとリーナに対して放った言葉。守るべき対象であるはずの二人も、彼女の勝手な判断で理不尽な扱いを受けなければならないことを本人によく考えさせんと、シエラは訴えた。
『自分が死ぬ前提なら、二人をどうにでも扱っていいわけじゃない……‼︎ せめて貴方の理不尽に、二人を巻き込むのは……』
「おいおい勘違いするな。別にそんなこと考えてない。それに……私程度の理不尽で潰れるような奴らなら、とっくに死んでるさ」
己が理不尽なことをしているのは否定せず、ミシャリーゼは目の前のエルフに少しばかり偏っている考えを訂正させるべく口を開いた。
「…………正直に言おう。私は今相当余裕ぶっているように見せているが……内心物凄く焦っている……ということは全くない」
『はぁ?』
「無いんですね……」
と思えば、また訳の分からないことしか言わぬ錬金術師に、まぁそうだろうなと言う諦めの含まれた溜息が出るシエラと、会話を聞いていた三人。
「だがな、これが最短ルートだ。こうして進みながら集めてる素材も、ここからの戦いに全部使うつもりだし」
「えっ……? それじゃあ師匠がずっと集めてたのも、普段の錬金術の研究とは関係なく……⁉︎」
「できるなら余ったやつは持って帰りたい」
「そこは嘘でもそうだと言ってくださいよ……!」
今更その程度でディナルがミシャリーゼに対して何か不満を抱いたりすることなどは無いが、それでもたまには私欲以外で動く彼女の姿を見てみたかったのだろう。突っ込みを入れる彼の声には、ほんの僅かの落胆が混じっているように思えてならなかった。
「夜明けまで……あと十時間あるかないかくらいか。それだけあれば、決戦用の最終兵器も間に合うはず。……安心しろシエラ。私は何があったとしても、本当の意味で誰かの命を一緒にかけたりなんてしない…………まぁ、運命共同体のお前は別だがな!」
「ちょっとミシャリーゼさん‼︎ シエラ様は巻き込んでもいいっていうのですかぁ⁉︎」
「っあぁいやいや、言葉の綾というかな?」
『…………』
最後の言葉にとうとう怒りを覚えたのか、先へ進む歩は止めないもののミシャリーゼに突っかかり始めたラミア。そして、そんなことを言われた当の本人は…………
『……ほんっと……手先は器用なくせに』
嘘偽りのないそんな一言を聞けたことに、今だけは少しだけ安心感を覚えたらしい。ここまでの焦りもひとまずはどこかへと飛んで行き、消えてしまう。ただ先にいる敵だけを見据え、その身を敵地の奥へと身を進ませることを考え始めたのだ。




