#54 自爆集
「――っと……お?」
転移した先も、先ほどまでいた樹窟とほとんど変わり映えのしない空間。ただ少しばかり整備されているような雰囲気を醸し出しているのは、おそらく照明の代わりをしている天井の光魔法と、何かしらの意味があるのかは不明である壁画の如き壁に彫られたそれのせいだろう。
そして、転移した先でミシャリーゼが真っ先に視認したものは――床一面にうじゃうじゃと蔓延る魔物の群れ。地面から離れた高い場所に送られて来た彼女に続く者達も、次々とそれを己が目に捉えていく。
しかしながら、魔物と言ってもそれほど悍ましい姿をしているわけではない。掌サイズほどの石にくりくりとした目の付いた、どちらかと言えば可愛らしい部類に入る生物。しかしその愛らしくある外面の中に、鮮烈な殺意が入り交じっていることに初めに気付いたのも、ミシャリーゼであった。
転移門結晶を越えた先に自分達を出迎える者など存在しないだろうという面々の無意識的な気の緩みは、確かにあっただろう。だがその中でも彼女だけは、敵の『初見殺し』を密かに警戒していた。
「――すまん、ちょっとばかり苦しむぞ」
「えっ?――っくぁ!? か……!?」
刹那、その場にいる全員の息が止まる。ものの例えではない。実際に呼吸が不可能になってしまったのだ。
訳も分からぬまま、各々が必死に空気を吸おうと試みるも、それは失敗に終わる。
脳裏に過ぎる死の予感。あまりにも突然の出来事であった。これが敵の攻撃であったのならば、ようやっと乗り込んで来た敵地の入り口で全てが終わってしまうところ。ミシャリーゼの一言が無ければ、もれなく全員がパニック状態に陥っていた事だろう。
「ッ――!」
次の瞬間、ミシャリーゼは一人地面へと加速する。石の魔物達を押しのけ、いち早く立てる場所へと到達。間髪入れることなく地面に向かって錬金術の構えを取り、自分の足元から上に向かって石柱を伸ばした。
呼吸がままならぬ中、即座にその石柱の先端から周囲の壁に更に細い無数の柱を。その柱から柱へ、更に石柱を。そうして蜘蛛の糸の如く石が重なったことを確認すると、ミシャリーゼは残っている穴の開いた箇所を急くように壁の岩を利用して錬金術にて塞いだ。
「…………あっぶな」
ミシャリーゼがそのように再び呼吸の出来るようになった空間の中で一言放った瞬間――――彼女の覆った岩の下で響き渡る轟音。
「っな、なんなのですか!?」
ミシャリーゼの次にしばらく絶えることのなかった衝撃と爆音が止んだ数十秒後、呼吸と共に落ち着きを取り戻すことに成功したディナルが、真っ先に地面へと到達した者へ問う。
「爆発だ。あの魔物、私達がここに来た瞬間自爆するように仕組まれてたんだよ」
「自爆……!?」
「爆弾魔の考えそうなことだ。どうやら、あくまでも敵を殺すなら爆発させたいらしい……いやはや、相手はとんでもない芸術家とみた」
「いや意味分かんないですから! ……それにしても、なんでさっきはあんな……」
「さ、行くぞ。この感じだとおそらくまだまだ爆発系の魔法トラップやらがわんさかあるだろうから、慎重にな」
目まぐるしく起こる出来事についていけなくなってしまいそうになるラミア。まさか自分達が知り尽くしている洞窟の奥――ここが樹窟であるかは定かでないが――にてここまでの未知に晒されることになるなんて思いもしていなかった彼女であったが、その中でも特に今しがた起こった呼吸できなくなる現象については何故と思うばかり。
その理由を聞こうとするも、それをやったと思われる張本人はここまでとずっと変わらない様子とテンションで先を急ぐべく歩を早めた。そのせいで、ラミアも聞きたいことを聞き逃してしまう。
「疑問は多いけど……そもそも、なんであれだけの魔物が一塊になってたんだろ?」
「ただ群れで行動していただけ……とは、考えられないな。あれだけ密集して自爆する習性などあるはずないとは言い切れないが」
「魔物を、誰かが使役していたとか? いや、そんな魔法も技術も聞いたことがないし……」
なんとか答えを出すために考え続けるも、結局それらは疑問を次々と増やすばかり。ただでさえ転移門結晶を越えて来ただけで状況が目まぐるしく変化したというのに、いきなりこのような殺意の塊に晒されては、十分な思考能力すら保つことは難しいだろう。
『……今は進みましょ。敵も、ミシャリーゼも相変わらず何考えてるか分かんないけど……迷いはない。きっと悪い方向には進まないと思う』
どうすればいいのかと悶える三人に、シエラは優しい声色で今は歩くことを促した。
ここから先、このような未知なる理不尽が彼らを間違いなく襲うだろう。だがそれでも、一人の道標がいるのならば、心配することは何もない。そんな意味が本当に籠っているのかどうかはそれを発したシエラにしか分からないが、三人はそれを以外にもすんなりと受け入れることが出来たのだ。




