#47 まだ知らないもの
「やっぱ、ミシャリーゼさんって凄いね。半日で里の建物がほとんど元通りなんだもの」
二人と別れた後、残ったディナルとリーナに向かってラミアが呟いた。未だ少しばかり見開いた瞳が、信じられないものを見たことが忘れられないことを物語っている。
「俺たちも、あそこまで大規模の錬成を見るのは初めてだったな」
「あの人、本当は神様か何かだったりして」
とても人間に成しえることができるとは思えないそれをいとも簡単にやってのける錬金術師の技量に驚いているのは、二人も同じだった。
本来であれば、復興にも相当の期間……それこそ、一か月程度ではろくに進むこともないであろう量の復興作業。流石だと言わざるを得ないが、同時に少し寂しさも覚えてしまうのは、少しばかりの我儘。
確かに、街並みは元通り。多少地面が抉れている箇所は残っているが、ミシャリーゼが寝食そっちのけで駆け回ったおかげでほとんど綺麗に直っている……しかしそれらは、かつてこのククノチシアに住む人々が何百年もかけて築き上げてきた努力の結晶。それがたった半日で復元されてしまったのだから、ラミアの内心は少々複雑でもあったのだ。
「……ほんと、何者なのかな? 滅茶苦茶強いし、言いたいことズバズバ言っちゃうし……それでも今までミシャリーゼさん以外の人間を見たことなかったから、あぁいうのが当たり前の種族なのかなって思ってたけど」
「ミシャ様はデリカシーというものが無いですからねぇ」
(リーナは人のこと言えないと思うが……)
呆れたように話すリーナであったが、近頃の今まででは考えられない彼女の暴走っぷりから、ディナルの中で彼女もミシャリーゼと大して変わらないのではと思い始めてきたことは、ここでは言わないことにした。
「……でも、師匠が本気で戦ってる姿は、まだ見たことないな」
ディナルはこれまで教えを乞う中で、何度もミシャリーゼと手合わせを行った。時には本気で勝つため挑みにいったこともあったが、そこまでしても軽く捻られて終わりというのがいつもの流れだった。
彼女の底力……その真なる実力を、この約一か月間共に過ごしてきたディナル達も知らない。
「ラミアは見たことあるの?」
「えぇ。……あの時の衝撃は、多分この先何千年……死ぬまで忘れないと思う」
思い出そうとするまでもなく、ラミアの中ではかつての鮮烈な記憶が駆け巡る。
時は今から十年前。堕鬼族にククノチシアが襲撃された時のこと。満身創痍であったエルフの代わりに、大勢いた敵勢力へと単身乗り込んでいくその様は、さながら鬼神を彷彿とさせるものであったという。
「あんな強さが欲しいって、本気で感じるくらい凄かった。実際そのおかげで里を救ってもらってるし、こんな状況になってもミシャリーゼさんにはまだ余裕がある。私自身も、あの人を信じてる」
その強さに、思いを馳せなかった日はない。里を守らねばならぬという使命を持つ者は、恋焦がれるほど彼女の強さに惹かれ、同時に尊敬の念すら抱いていたのだ。
「現状勝てる気は全くしないけど、それでもいつか…………あれ? なんだろこれ……」
そんな風に話していた時だった。ふと地面に目を向けたラミアが、見慣れぬ物が落ちていることに気付く。
「破片? 被害を受けた建物のものかな?」
「いや、それなら木片や石片のはずだ。ここの建物は、それら以外使われていないようだし」
「うん。……でもこれは、そのどれとも違う」
触ったことのないような感触だった。表面は少しザラついており、それでいて異様なまでに軽い。明らかに自然界に存在するものとは思えぬ代物。
「うーん……硝子とも違うし、ちょっと分かりませんね。どうせミシャ様は知ってそうですけど」
「放っておくと固まる樹液があると昔本で読んだが、それとも違うだろうな……師匠なら知ってるだろうな」
それの正体については、他の二人もお手上げ状態。だが、考えていることは全く同じであったのだ。
「――おぉすっげ、完全にプラスチックだ」
「ほらやっぱり知ってた」
そこから再びミシャリーゼ達と合流してみれば、彼女は驚いていそうでありながらも別にそうでもないような微妙な反応を見せた。
「プラス……ってなんですか?」
「軽くて腐らない。んで硝子同様薬品にも強い。熱に弱いことさえ除けば割と万能な物質だ」
当然、そんなものこれまで見たことも聞いたこともない三人。森の中でも人国でも、そのような名前は聞いたことがなかった。
「師匠が作ったんですか?」
「いやいや、どう考えても爆発物の破片だろ。私を実行犯扱いするつもりか?」
「そういうわけでは……す、すみません……」
「冗談だよ。にしても、まさかこんな物が出てくるとは思わなかったなぁ」
目を丸くして本気で驚いている様子のミシャリーゼ。そんな彼女の様子はあまり見たことなかった面々は、同時に彼女ですらそこまでなるほどの代物にただならぬ何かを感じるばかりであった。
「じゃあ、このプラスは一体誰が……」
「そこなんだよ。どうやって作ったのかもだが、そもそも材料の石油が採れる場所なんてあるのかこの森に……? いや、石炭からでも作れたんだったか? うーん…………よし」
しばしの長考の末、ミシャリーゼは本腰を上げるように胸を張ると、その次にはすでに一言。
「穴掘るか」
『…………はぁ?』




