#44 ミケロの行方は
「ミケロ、どこ行っちゃったんだろう?」
ふと、リーナが呟いた。
はぐれてからというものの、その姿を彼女らは一度も見ていない。里を修復していく際にあらかたククノチシアの中は回ったが、それでも赤髪の少女は見当たらなかった。
「こんな場所で迷子になるわけもないしなぁ。通ってきた樹窟の中じゃあるまいし」
ディナルもその件に関しては、少々疑問を抱いていた。共に――といってもミシャリーゼとではあるが――行動していたミケロが突然単独行動を取るなどという勝手な真似をするとは思えなかったのだ。
「「師匠(ミシャ様)でもあるまいし」」
「私が一体何をしたっていうんだ」
『日頃の行い全部でしょ』
息ぴったりにそんなことをボソッと呟くものだから、流石のミシャリーゼでもスルー出来ない。
とはいえ、途中から目を離していたので彼女に責任がないというわけでもない。常日頃から変な行動をとっていなければ、それを考慮してシエラの反応も多少変わっていたのだろうか。
「……あの、ミケロが犯人でした……なんてことはないのかな? 皆の仲間を疑うようで申し訳ないけれど……」
そんな会話に、ラミアも参加の意思を見せた。
ちなみにバシュヌはもう既に単独にて動き始めており、この場にはいない。仕事となれば何を置き去りにしても淡々と突き進む……まるでサイボーグのような男だ。
「……あの子が堕鬼族だって聞いた直後にこんなことになって……正直、私は怪しんでる。十年前の襲撃があったあの日から……もう、あの種族のことは何も信用できない」
仲間を殺された恨み、怒り。守れなかった悔しさ。かつてより抱いていたそれが今回再び掘り起こされ、以前よりも強い憎悪となって、ラミアの中にて新たに宿っている。
しかし、ミシャリーゼが……里を救ってくれた英雄に等しい人間が無害であると……何かあった場合、自分も死んでやると言い連れてきた者だ。出来るならば疑うような真似はしたくないというのがラミアの本心である。
だがそれでも、本能がそれを拒む。受け入れることを否とする。頭では分かっていても、それに従いたくないというのがラミアの本音だった。
「ま、今んとこ何も分かってない以上、可能性がゼロであるとは言えんな」
「……意外、ですね。普通、こういう場面では仲間を庇うものでは?」
「一応人間としてはかなりの年月生きてるんでね。変に感情的になったりとかすることに意味がない事は分かってるつもりだ」
「ミシャ様まだ二十代ですよね? ギリですけど」
「おー、言葉に棘があるなぁ。いいだろ別に、どうせ皆行き着く先は同じだ」
飄々としたミシャリーゼの態度に、ラミアはほんの僅かながら疑り深くなっている様子。喋り方に関してだけ言えばいつもと対して変わりないが、問題は今の状況下においてそれを続けているということ。
先ほど話で出した『エリーゼの流星群』……星々の時ずらしについて説明する時もそうだ。まるで最初から全て分かっているかのような……裏では何が起こっているのか、本当は全て知っているのではないかとラミアが考えてしまうほどの余裕が、上辺だけでも確かに彼女にはあった。
「嘘でもいいんですよ……ほんの少しだけ、私を安心させてくれるだけでいいんですよ」
「いや嘘は駄目だろ…………ま、お前は嘘だった場合の方が手っ取り早く片が付くって思ったんだろうが……遠慮なく私を殺せば全部解決だし」
「そ、そういう意味では……!」
ここからどうすればいいのかという不安と、親衛隊長であるが故の重圧。己が全てを率い、全ての責任を負わねばならないというプレッシャーが、今こうしてただ話しているだけでもラミアの精神をじわじわと削り続けている。
自分がどうにかしなければいけないことは理解しているし、自分自身だってそうするつもりでいる。それでも、いざという時に最高の動きが出来るよう、心を僅かでも軽くしたかったというのが、彼女の嘘偽りのない本音。
「なら、もういっそのこと手っ取り早くいこう」
「っ……それは、どういう意味ですか……?」
ラミアが恐る恐る聞いてみれば、一秒あるかどうかの間の後返って来る、錬金術師の不敵な笑み。
「――契約だ」
「契約……?」
「あぁ。私にとって、何よりも固く結ぶ約束。万が一違えることがあれば、如何なる場合においても私は死ぬ……とは言っても、実際にそんな能力を持ってるわけじゃないが」
突然、何を言い出すんだこの人は。とでも言いたそうに訳の分からないものを見るようなあっけらかんとした表情を見せるラミアに、どこか既視感を感じているのだろう。同じ場にいた他の三人は、まるでかつての自分を眺めるように小さく微笑んだ。
何故だか不思議な安心感を与えてくれるような、彼女の発する二文字。その言葉にどれ程の決意の強さが宿っているのか……それは、エルフの王に等しい存在でさえ知っている。
「ラミア、バシュヌの二人には、ここから夜明けまで私に何があっても全面協力してもらう。対価として、陽が昇るまでに全てが終わったならば、私は出来る限りお前達の望みを叶えてやる。無理だった場合は――――シエラを除いた私ら三人、煮るなり焼くなり隙にすればいいさ」
「……え? いや、はぁ!? 何勝手なこと言ってるんですかミシャ様ぁ!!」
あまりにも無責任。自分のそれを含めた命全てを軽んじているような発言。聞いていて苛立ちを感じてしまいそうなそれであるが、真正面から受け取ったラミアはなぜだかそれを感じない。
――ミシャリーゼの目の奥に宿る揺るぎない覚悟を、嫌でも目に入れてしまったから。




