#42 星々の時ずらし
ミシャリーゼの呼びかけに、全員が何の迷いもなく集まればよかったのだが、案の定一人は乗ってくることがない。
「すみません……何度も引き止めはしたんですけど……」
「気にするなラミア。正直あんまり期待してなかったし、あいつはあいつなりに動いてるだろうしな」
ほとんどの者はミシャリーゼの指定した里の外れにて集合したわけだが、ククノチシア親衛隊の副隊長、バシュヌのみがその姿を現さない。隊長であるラミアも説得こそしてくれたものの、当の本人はその全てに対して首を横に振ったそう。
しかしミシャリーゼ……というより、この場にいる全員がそれに関しては予想出来ていた。元々人間には敵対している様子であったし、彼からすれば面識の薄いディナル達が今回の犯人であるという考えも捨てきれない。
慎重に動いていることは疑いをかけられているディナル達も重々理解してはいるものの、ここまで表立たれると少々不快に思ってしまうのも無理はない。
「ほんとにエルフ……妖精族至上主義というか……同族以外は疑って当然って感じで、話の一つも聞いてくれませんでしたよ」
「あいつぅ……!」
「お前もそろそろいい加減にしろ。バシュヌに怒ったってしょうがないだろう」
現に初対面の時からバシュヌの事をよく思っていないリーナは、案の定彼に対する苛立ちを露わにしていた。
ククノチシアに足を踏み入れた途端に主であるディナルを襲い、その後謝罪も無くただ淡々とこちらを見下すような発言ばかり。良いイメージなど僅かだって持てるはずもなく、そっちがその気ならばと完全に喧嘩腰になっているリーナをディナルが宥めるまでが早くもワンセットとなっていた。
「……それでミシャリーゼさん。さっきリーナから聞いたんですけど……どういうことなんですか? ユグドラシルが昨日ではなく、本当は今日だったって……」
「――――『エリーゼの流星群』だよ」
間を置くことはなかった。ミシャリーゼは早速本題に入るぞと言わんばかりにただ一言。
尋ねた張本人であるラミアは、それが何であるのかを知らない。怪訝な表情を浮かべるばかりであったが、中には伝わっている者もいる。
「『エリーゼの流星群』……!? いや、でもそれって……!」
「二人は知ってるの?」
「ゼルトース王国内では人気の本です。たしか……エルディアって人が書いたお話ですね――――」
昔々、山を越えた先にある小さな村に住んでいた少年少女がおりました。
かつて祖父に連れられ、海の向こうへ十年に一度しか見られない流星群を見に行った少年は、美しい星の数々に魅入られる。
ぜひそれ一緒に見て欲しいと、大人になった少年は丁度十年後、少女と共に海へ出た。しかしその晩。海のど真ん中で強烈な嵐に遭遇してしまう。流星群の日は、必ず晴れるはずなのに。
そんな最中、少年はふと思い出した。一年前に亡くなった、祖父の忠告を。
『次の流星群の日、星たちは悪戯をするだろう。五千年に一度、流れをずらしてしまうんだ。”星々の時ずらし”と言ってね。その前の日には必ず災いが起こるから、船を出してはいけないよ』
少年がそれを思い出した時には、もう遅かった。少女は嵐に攫われて、木で出来た小舟は崩れ、少年はただ深い後悔と悲しみに暮れながら、海へ沈んでいくのを待つことしか出来なかったのでした。
「――簡単に言えば、こんな感じの話ですね」
「たしかに……どこか今の状況と似てるかも……」
「まぁ今リーナが話してくれたように、少年のド忘れが招いたバッドエンドで終わる話なんだが……これ、本当は実際に現実で起きた事故なんだ」
「えぇっ!? そんなこと、聞いたことすらないですよ……!」
大切な事は、いつまでも忘れてはならないというメッセージの込められた作品。子供向けではあるものの、人国内ではかなり広まったベストセラー作品であることは間違いない。当然ディナルとリーナも知っていたし、何度もそれを読んでいる。
しかし、それが実話を基に作られた話であるなど、一度たりとも耳にしたことがなかった。
「本当なんですか、師匠……?」
「王城書庫の古い文献を漁ってる時に見つけたんだよ、何百年も前に消滅したパルトス共和国で暮らしてた少数民族が遺した実話。『エリーゼの流星群』にドハマりしてた所長から何遍も話の内容聞かされてる内に、それが元ネタかと気付いたわけだ。ちなみに、当時のパルトス首相の印が押されてたから、事実であることは確定だ」
「それは……私達が知らないのも納得です……」
あまりにも古い記録。それも一般人が見ることの出来ない文献の内容が使われている故、誰もが作者が一から作り上げたものであると信じて疑っていなかった物語に元となるそれがあった事に、話を知る二人は驚くばかり。そして話を初めて聞いたラミアの方は、冷静に今回の惨劇と重ね合わせていた。
「ざっくり噛み砕いて説明すると、この世界は五千年に一度の周期で、一年が一日伸びるんで、大体の人間はそれに気づかないままであるために、こうやってビッグイベントがずれる事があるわけだ」
「なるほど……でも、それなら、仕組みに気付いてる者もいるんじゃないですか? エルフであれば、五千年以上生きていることだってざらですし、私の祖父だって――――」
「そう、そこだ。ラミア」
ミシャリーゼはその彼女自身の気付きを良しと言うように指を差す。その確信が、徐々に現実へと近づいていることを実感したからだ。
「おかしいだろう? あんだけ長く生きておいて、その事を知らないはずがない。今はいない老エルフの先祖達だって、生きてる間何度もユグドラシルを見たんなら、子孫に伝えていってるはずだ。それこそ、物語に出てきた主人公のじいちゃんみたいにな……」
そこから彼女が続けざまに放った言葉は、その場にいる全員の芯を震わせた。
「まだほぼ黒……百パーセントではないが、今回の件――――ククノチシアにおける上層部……老人連中が絡んでると、私は見ている――」




