↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/62

#40 目覚めの違和感

(……ん)


 ミケロが意識を取り戻したのは、そんな会話からおよそ三十分ほど経過した頃だった。


(あれ……たしか、爆発が起こってフッ飛ばされて……そっからミシャリーゼと走ってて……駄目だ、そこから思い出せな――ん? ってことは僕が……眠(・)っ(・)て(・)た(・)?)


 そしてそれは、彼にとっては不思議な体験だっただろう。

 影となってからミシャリーゼの作った器に入り、今に至るまで。ミケロは睡眠という睡眠を一(・)度(・)も(・)取っていない。取る必要が一切なかったのだ。

 

 一般的な肉体とは、簡単に言えば肉体と魂が融合しているのだ。だからこそ肉体疲労が発生するとそれを動かしている本人の魂の活動限界にも影響を及ぼし、回復のために眠りに入る。


 しかし、ミケロは違う。肉体を手に入れてはいるものの、こちらは厳密には融合しているわけではない。

 あくまでも肉体と魂は別。魂が個別で肉体を動かしている故、その疲労をミケロが感じるという当たり前のことが起こらない。


 更にはその体を構成するもの――大熊プヴォロの肉だ。

 高密度の筋繊維を搭載し、確かにそのエネルギー消費量は常人のそれとは比べ物にならないほど。だがそれでも、四十を超える個体のそれを一纏めにして築き上げた全体構成筋(そのからだ)……ミシャリーゼによってチューンナップが施された特別製の肉体は、限界効率以上の持続力を獲得するに至っていた。


 疲れにくい、そして回復速度も速いそれだからこそ、魂の限界に体が追い付かないということもない。




 故に――――ミケロは、半永久的に休息を必要としない。






(……前世や堕鬼族(フォーガ)の体だった時では考えられないほど目覚めが良い……疲れてないからか? ミシャリーゼが流石というかなんというか…………ってそうだ! あの後里はどうなったんだ!?)


 ミシャリーゼが久しぶりの酒を堪能していた場所。そこも当たり前であるかのように例の爆発に巻き込まれてしまった。

 彼女とミケロは持ち前の反射神経でなんとか直撃を免れたものの、近くで共に楽しんでいたエルフ達の多くは助けることが出来なかった。救いの手を差し伸べる時間すら、里を急襲した悪意の元凶が許すことはない。それほどまでに、一瞬の出来事だった。


 ならばせめて、何とか死を免れた者は出来る限り多く助けたい。そんな思いが、気付けば体を動かしていた。無我夢中でミシャリーゼと共に走っていたミケロの頭の中は、少し頼りの無い正義感と焦りだけ。


(……走ってる途中、急に体が動かなくなったんだ……視界も真っ暗になって)


 現状の確認を完了するも、それに至るまでの空白の時間、その謎が残る。

 もし現実が正しいとするならば、ミケロ自身は気絶していたということになる。だがしかし、例え肉体が動かなくなったとしても、影として入り込んでいるミケロ本人の意識が消えることは無い。”眠っていた”という時点で、相当な異常事態なのだ。


「けど、まだ生きてることには変わりない。ならどうとでも――」






「出来ないねぇ、残念ながらさぁ」


「っ……?」


 聞こえてきた声によってミケロの意識が回復したことを悟ったのか、それに重ねるかのように言葉を返す者が一人。


 優し気な声色は、若い男性のそれに近い。が、どこかベタついて、感じた脳から離れないような独特のもの。心地の悪く、どこかいやらしさすら感じてしまう。


「ここはククノチシアの地底最下層に位置する場所。それも、里(・)の(・)一(・)部(・)上(・)層(・)部(・)し(・)か(・)知(・)ら(・)な(・)い(・)ようなさ。誰も助けになんて来ないし、君が逃げることも叶わないよ」


「随分親切に教えてくれるんだな」


「君には最低限冷静でいて貰わないとだからさぁ。ま、その必要はなかったみたいだけど。……普通、多少なりとも慌てたりするものじゃない?」


「生憎、捕まって色々されんのには慣れてんだよ」


 堕(・)鬼(・)族(・)の里での苦い経験。そしてまだ一ヶ月しか経っていない前域での出来事にて、ミケロはこのようなイレギュラーな状況には多少適応が速い。本人が慣れたくて慣れるようになったわけではないことは、言うまでも無いだろうが。


「で、誰だよお前……!」


「あのさぁ、いくらお優しい俺でも、犯人(こっち)側から名乗ってあげるほど馬鹿じゃないことくらい想像つくでしょう。強いて言うなら……俺は”協力者”――ってとこかな」


「協力……? 一体何の――――うぐぁっ!?」


 問答の道中、突然ミケロを襲う鋭い痛み。刃物の類ではない……まるで電撃でも食らったかのように全身を一気に駆け巡る鮮烈な痛みだ。


 ただし、どこをやられたのかと己が体を見渡しても、傷という傷は見当たらない。血が流れている箇所も無ければ、痣が出来ているというわけでもない。まるで内(・)側(・)だ(・)け(・)痛(・)め(・)つ(・)け(・)ら(・)れ(・)た(・)よ(・)う(・)な(・)、不気味な苦痛だった。


「さ、色々教えてもらおうか。じゃないと、これからもぉっと痛めつけなきゃいけなくなっちゃうからさぁ」


 できれば苦しませたくない。そんな意味を含んでいるような優し気な声色。しかしその表情は、紛うことなき愉悦のそれ。甚振ることに快感を見出してしまっている者の、貼り付けたようなにやけ顔。底知れぬ狂気が人の姿となって、今ミケロの目の前で蠢いている……そんな事実だけが、変わらぬ現実だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。