潜伏
20XX年7月26日15時、愛知県警察豊橋警察署。数十分前に人員輸送車と共にやってきた工作員の一団は、嗅ぎ付けてきた新聞記者を避けるように裏へ入り、機動隊の警護のもと署内へ入った。怪我の手当ての後、彼らは別々に留置所に入れられた。
「つまり、君らはあの船に乗ってきた工作員ってことだね?」
4階の留置管理設備のそばにある取調室では、急行した県警本部国際テロ対策室の刑事が朴に話しかけていた。
「はい、その通りです。」
あっさりと認める朴を少し不審に思いながらも、取り調べを続ける刑事。作戦の目的を問うと、全体では日本国内の混乱、自分たちは機密情報の奪取と答えた。
「数時間前、名古屋市内の地下鉄で輸送障害があった。これも君たちの言う金の率いるやつらかな?」
「金はもうそんなに移動していたんですね。」
他にも部隊の全容などを取り調べていく。しかし、部隊の全体の人員数や組織についてはわからない、知らないの一点張りだった。これは他の工作員たちも同様だった。一度取り調べを終え食事を与えると、むさぼるようにがっついた。
「明日本部へ移送しよう。」
同日23時59分、豊橋市山中。静岡県湖西市へ抜ける峠道。静岡県磐田市の見附宿で東海道を離れ、浜名湖北岸を周り豊川市御油宿へ向かう街道である姫街道の、山を越える区間。そこへ向け進むワンボックスカーが1台。
「ウェーイ!今日は愛知県最強心霊スポット、本坂峠に来ちゃいましたー!」
市内の某大学の学生5人は、浅間神社富士社の手前で車を停め騒ぎ始めた。
「まずはここ!富士浅間神社です!」
携帯でカメラを回しながら車を降りる。男2、女3。騒ぎ声は山中に響いていた。もちろん潜伏する金たちにも。
「5人、か。手頃だな。」
こだまする騒ぎ声の裏側で、工作員らが配置を決め進路に回り込む。物陰に潜み、彼らがやって来るのを待った。
「この階段の1段目と3段目を踏むと、呪われて帰り道で事故に遭うらしいぜ!」
「ヤダ怖いー!」
前に2人、真ん中に2人、後ろに1人に分かれたグループは階段を上る。中腹にある鳥居を抜け、少しだけ参道が平らになる。
「あれ?コウ君は?」
真ん中を歩いていたはずだった女が、最後尾の男が消えたことに気付く。
「え?さっきまでいたよね?」
「冗談いいって、出て来いよコウタ!」
その時、最前列にいた男の隣からまた1人女が忽然と消えた。
「…リサ?」
青ざめる男。うずくまる女と立ち尽くす女。男が突然叫び声を上げながら階段を駆け下りていった。参道の脇、斜面に生える木の幹の向こうに人影を見たのだ。そのまま駆け下り車に飛び乗ろうとした男の足を引き倒す工作員。残された女2人も同じような経過を辿った。
「若いな、女もいる。」
1人がそう呟いたが、手を出したりなどしない。我々は蛮族ではなく国家主席と共にある正規兵である。
「男の身ぐるみを剥がせ。カバンも拝借する。車に乗れ。」
12人の男たちは無理やりにワンボックスに乗り込んだ。




