対策本部
20XX年7月27日10時55分。辛うじて混乱が広がる前に市街地を突っ切ることに成功した現地情報班は、愛知県庁舎に飛び込み対策本部の設置が急がれる会議室へ入った。県庁正門前や外周には中部管区機動隊第1大隊が布陣し警戒を行っていた。
「陸上自衛隊の望月です。第10師団所属の者もあと数分で到着します。」
既に準備が終えられ長机が並ぶ中、最も奥まった位置に腰掛けていたのが愛知県知事だった。大人しく座ってはいるが顔には焦燥と混乱が浮き出ていた。その隣には名古屋市長、反対側には県警本部長、さらに隣には愛知県警察警備部長の大澤警視正が着席していた。
「県警の大澤です。敵は小銃や機関拳銃、ロケット弾まで持ち込んでいるようです。警察力だけでの対処は困難かと考えますが、自衛隊との共同作戦や武器弾薬の融通などの調整は可能ですか?」
既に機動隊が事態に対処しており、部下から犠牲が出つつある状況で、落ち着きを見せながら話しかけてきた大澤に感心しながらも、訓練事例と想定、また法制の観点から望月は質問に回答した。
数分後、第10師団司令部付隊の幹部と通信科員が会議室へやってきた。対策本部の面子はこれで揃った形となった。
「名古屋市内各所で発生している事態について、現状の把握と対処のため、ここに事態対策本部を設置し、これより第一回本部会議を開催します。」
県知事が声を震わせながら言った。超法規的に災害対策本部の名目で独断で設置したこの場は、規則通りのメンバーに加え関係機関の人員が参加している。現状の報告を求められた県庁危機管理課の職員が話始めたが、過度の緊張に襲われたのか経過の8割程を話し終えたところで失神してしまった。前例のない緊急事態だ。無理もないことだろう。県知事は会議の一時中断を決定し、参加していた面々は1つ隣の大部屋で各機関との連絡や業務を始めた。
「大澤さん。」
望月の呼び止める声に振り向いた大澤は、望月の様子から何かを察したようでそのまま共に喫煙所へ向かった。
「お若いのに吸われるんですね。」
加熱式煙草をふかす望月に大澤が言った。
「好きなんですよ、課業時間に吸ったのは初めてですが。」
「それで、要件は?」
望月は大澤の言葉に応え、説得するように話し始めた。
「銃器対策部隊の集結は完了していますよね?名古屋駅前に一斉投入しませんか。」
銃器対策部隊。それは各県警の機動隊に組織される特殊部隊であり、MP5短機関銃などを装備し銃器を使用した凶悪犯罪に対抗するための専門部隊である。
「タワマンの事案は装備の特性から銃対には向かないでしょう。MP5は地下街のような閉所戦闘に向いています。」
望月の提案に対し、銃対はSATと連携して多方面に投入する予定だったと語る大澤。
「あなたの意見にも一理ある。想定より早く事が起こったもので、計画も見直さねばなりませんね。早期対処が肝要か。採用させていただきます。調整に行ってきます。」
大澤はあまり組織の縄張りや関係を気にしない性格の人間のようだった。国内の治安維持において対立しがちな自衛隊からの提案をすんなりと受け入れたことは、望月にとってありがたいことだった。




