叫喚
20XX年7月27日10時36分、愛知県警察交通機動隊の吉川巡査は無線機に向かってただただ叫んでいた。
「至急至急!交機05より本部!名駅南検問突破されました!NKと思しき集団より銃撃!」
『本部より各局、名古屋市内各所で発生する事態をG事案に認定。2機、管機各隊は所定通り行動せよ。』
バディを組んでいた先輩警官が検問したトラックが、突然暴走し荷台から発砲。バディだけでなく検問中の警官や周囲の民間人の多くが負傷していた。先輩の青い制服に血が広がっていった。
「追うぞ!」
近くのパトカーの陰から飛び出した警官が叫んだ。数100m先では、暴走したトラックから男たちが飛び出していった。そして、駅前の交差点を横切ったトラックはそのまま駅ビルに突っ込み、大爆発を起こした。
「交機05より本部!武装集団の発砲と爆破によりPM多数と民間人が死傷!避難誘導に入ります!」
弾痕の残るパトカーから無線機を引っ張り出し、辛うじて機能している通話のボタンを押し込み叫んだ。そして走り出した警官に追いつき走った。
「交通機動隊、吉川巡査であります!」
「地域課、笹島交番の安井巡査部長だ。あいつらを追うぞ。民間人を誘導する。」
俺の街で好き勝手はさせねぇ、と口走った安井は、そのまま騒然とする笹島交差点を突っ切り、百貨店の柱の陰に入った。吉川も追随し、逃げ惑う市民に向かって叫んだ。
「南へ向かってください!ささしまライブ方面に避難してください!」
安全の根拠はなかった。しかし、市民をここから遠ざけ、安全を確保するのが務めだと思ったのだ。
「銃、抜いとけよ。」
安井に言われ、腰のホルスターからニューナンブを引き抜いた。冷酷な金属の重みが手に、そして全身に圧し掛かった。
「2人で交互に前進するぞ。」
安井の発言を受け入れた吉川は、柱1つ分前進した安井がサインを出したのを見て安井の1つ先の柱の陰まで走った。視界の端に動くものが映った。
「吉川!敵だ!!」
安井が顔を出し叫んだ。咄嗟に銃を構えたが、発砲は一拍遅れた。敵の自動小銃が火を噴いた。その刹那、なんとか力を込めた引き金が、銃弾を弾き出した。敵の弾は逸れ、吉川の拳銃弾が敵の胸元に飛び込んだ。
「銃拾え!前出るぞ!」
安井に言われるがままぐったりと倒れた敵から小銃を拝借したが、頭は人を撃ったという事実で埋め尽くされていた。
「お前が前衛、俺が後衛だ。行くぞ。」
近づいてきた安井に肩を叩かれハッとした。自分は何のために警察官になったんだ。市民を悪から守るためだ。頭の中の邪念を振り払い、吉川は前を向いた。




