終章-7 : 壊された密室
(きっと怒りだわ。怒りが闇の方の魔法を強くするんだわ)
ルミナは息を吐き、壁を見据えた。
『涙や血が必要だって、叩かれたり、針で刺されたり……もう、人間なんて大嫌いっ』
瓶に閉じ込められていた精霊の言葉を思い出す。
(許せないっ)
ぐっと掌を壁に押し当てると、壁にピキッピキッと放射線状に亀裂が入ていく。
(何も悪いことしてない精霊に酷すぎる!)
小さかったひび割れが深くなってゆく。
「その能力、便利ですねぇ」
ポンと背中を叩かれ、ルミナは我に返った。
見ると壁の一部が崩れ落ちていた。壁の中の土や枯草が顔を出している。
「はぁ……はぁ……」
ルミナはその漆喰の禿げた壁を見つめていた。
(本当に私がやったんだよね……?)
ルミナは自分の掌に目を向けた。
ヴァルハラの城壁に傷を付けた大祖母のことが頭を過る。
(私は、大おばあちゃんに近づけたのかな……?)
ぎゅっと目を瞑り、手を胸元で握る。
ずっとルミナは、自分の髪色に反して弱い魔力がコンプレックスだった。自分だけ欠陥品なのだと思うこともあった。
ルミナはそっと目を開ける。
世界は何も変わっていないが、強い魔法に憧れていた少女の姿は無くなっていた。
「下がってください。後は私がしますから」
ユーリはそう言うと、壁を蹴り始めた。
「えぇ?! 大丈夫なの?!」
「えぇ、踵に鉄を仕込んでますから」
サラリとユーリが答えたが、ルミナは更に目を丸くした。
(鉄を仕込んでるって……ユーリさんの靴、どれだけ重いの?! 普段からそんな重い靴を履いてるの?!)
目を白黒させている間に、壁が貫通した。
ガラガラと崩れる音と砂煙に臆することなくその穴を抜け、ユーリは隣の部屋へと顔を出した。
部屋の奥手にはうっすら口を開けたベネディクトと神官たち、左側には軽く武装したゼニウスの兵士、そして一番近くにジークとシオンの姿があった。
「これは、これは。皆さんお揃いで」
ユーリが恭しく頭を下げると、ベネディクトはわなわなと唇をふるわせた。
「いつからそこに……」
「ずっと前からいましたよ。アルカディアの精霊を捕まえる、ずっと前から……貴方が、精霊の力の封印方法を研究している姿を、ずっと見ていたんです」




