ep.02―2
(大おばあ様を魔女呼び……しかも、私のことをバカにしてるでしょ?)
偉大な曾祖母に比べ、ちっぽけで可愛らしいと言われた気がした。
少しユーリを睨むが、彼はそれを気にする様子もなく、岩肌を上り、切り開かれた道に進みルミナを振り返った。
「足元を気を付けてくださいね」
(言われなくてもわかってるわ)
ルミナが履いているのは、アルカディアの柔らかな土に適した、枯草を編んだ靴だ。鋭く尖ったヴァルハラの岩肌に、一歩歩くたびに足の裏が悲鳴を上げる。
周りの民が履いている、何から作られたかも分からない頑丈そうな黒い靴が、ひどく羨ましく、そして恨めしかった。
痛む足を必死に隠し、ヴァルハラの民に包囲されるようにして山道を進む。
木々の合間に城を垣間見ることが出来るが、ルミナにそんな余裕はなかった。
(私は、王女。私は王女……)
かつて敵だった民に囲われ、顔が強張りそうになるのを、抑えるのに必死であった。
「さ、我が主の城にようこそ。ここも私が先頭を務めさせていただきます」
ユーリの声にルミナは、はっと顔を上げた。
森に溶け込み、美しい円柱の塔が見える故郷の城とは、あまりにも違っていた。
目の前にそびえ立つのは、外からは屋根の鋭い先端しか見えないほど、異様に高く、冷ややかに、外敵を拒絶するように築かれた巨大な城壁だった。
ギギギギッ
門番が開門すると、大きな扉は軋む音を立てた。
(嫌な音……)
ルミナは思わず顔を顰めた。
そんなルミナなど気に留めず、ユーリは先頭を切って、城の中へ。
その後を、密かにルミナが気にしている女性が付いてゆく。
揺れる髪を追うようにルミナも足を進めた時、左の海側の城壁に、幅二メートルほどの焦げ跡を見た。
(これって……)
海を隔てたアルカディアからは決して見えなかった、曾祖母が遺した伝説の証。
100年経った今もなお生々しく残るその傷跡を実際に目にした瞬間、ルミナの胸は、言いようのない熱い感情で満たされた。
同じ黒髪なのに、天と地ほどもある圧倒的な魔力差を見せつけられたような悔しさ。
それと同時に、自分たちのルーツである曾祖母は本当に凄まじい魔法使いだったのだという、震えるほどの感動。
誇らしさと、自分の不甲斐なさ、そしてこれからの不安――色んな感情がぐちゃぐちゃに入り混じる複雑な心地で、ルミナはただ、その爪痕を見上げることしかできなかった。




