6-10 : 平和の象徴が運んだもの
ユリウスがデッキに姿を現し、手を振る。
ルミナとアストリアは笑顔で振り返した。
「行っちゃったね」
「そうだな」
ジークは、海風に靡く髪を抑えるルミナの横顔に目を向けた。
ジークは髪を靡かせ遠くを見つめるルミナを、無意識に今までもよく見つめていた。
「それでは私は一度、城に戻ります。協会への案内はベネディクト司教に任せてありますわ」
アストリアがそう言うと、昨日と同じ白の法衣を着たベネディクトが頭を下げた。
「お願いします」
ルミナも頭を下げると、彼はニコニコと微笑み「謙虚な貴女はきっと、神をも味方につけるでしょう」と言い、教会に向かって歩み始めた。
「神様を?」
ルミナは目を丸くする。
「そうです。貴女のような素直な方を神は慈しむのですよ」
「そうなんですか」
アルカディアの精霊は、一度加護を渡した相手の子供に同じ加護を与えることが多い。
火の加護を父、水の加護を母が持っている場合、どんな子に……というわけでなく、どちらかの精霊が、なんとなくどちらかが加護を渡すのだ。
(俺には一生、縁がなさそうだな。それに、勝利の女神の加護があるのだから、ゼニウスの神に好かれようとなんて、思わないがな)
ジークは、歩きながら興味深そうにベネディクトの話に耳を傾けるルミナを横目で見た。
(ルミナは素直だから、いつか誰かにだまされそうだな)
抜けているところが可愛いと言えばそうなのだが、少し心配でもあるとジークは思うのだった。
◇
「ここが我が国で一番広い、セラフィア広場でございます」
「わぁ!」
石畳の大きな丸い広場の中心には噴水があり、水は夏の日差しにキラキラと輝いて見える。それを囲むように緑の生い茂る木々と、白い壁の集合住宅がある。そして、一角には白い尖った屋根を持ちそびえ立つ大きな教会が見える。
ルミナはその美しい光景に感嘆の声を上げた。
「今は出店がほとんどありませんが、降臨祭には広場一周を埋め尽くすほどになります」
「素敵ですね!」
目を輝かせるルミナにベネディクトは嬉しそうに目を細める。
「言いようのないほどの活気に溢れております。またその頃にもいらっしゃっていただきたいほどです」
「だって」
ルミナは興味なさそうなジークの腕を引く。
「……広場にたくさんの鳥がいますね」
虫でもいるのか鳥はくちばしで石畳の間をつついている。
ジークはチラリと、鳥からベネディクトに目を向けた。
「この鳥は“鳩”と言いまして、我が国の平和の象徴となっている鳥でございます」
そうベネディクトが答えた時、ジークに向かって一羽の真っ白な鳩が飛んできた。
その鳩の足に何かついていることに気付いたジークは、ベネディクトの死角になるよう、彼に背を向け、鳩を捕まえた。そして、そっと結ばれていた紙を外すと、それをポケットへと滑り込ませる。




