ep.01―5
「……お父様、今、なんて?」
告げられた単語の意味が、ルミナの脳内で結びつかない。
ルミナは自分を落ち着かせようと、ゆっくりと息を吐き、瞬きを一つした。
「ヴァルハラの第二王子、ジーク・ヴァルハイトの婚約者として、向こうに行くから大丈夫だと言ったのだよ」
エリスは笑顔を取り繕って、ルミナに言い聞かすよう答える。
「本当に婚約するのではなく、その体で行くだけだから……ルミナ? 聞いておるか?」
「いえ、お父様。あまりのことに、頭がその言葉を拒否しただけですわ」
言葉通り、ルミナの頭の中は真っ白であった。
(婚約者……? 私が? あの野蛮な国を率いる王族の……?)
逃げる先は安全な隠れ家などではない。
かつて自分の国を焼き、曾祖母に城を焼かれた、因縁渦巻く敵国の――その中心地だった。
「そうか……。突然のことに驚かせてしまったな」
(当たり前じゃない。偽りであっても、よりによってヴァルハラの……)
あまりの理不尽さに、眩暈がしそうだった。
「だが、ゼニウスの船が向かっているなら一刻を争う。ルミナ、出発は明日だ。すぐに支度をしなさい」
「明日……っ!?」
ルミナの目の前が、さらに暗くなる。心の準備なんて、1ミリもできていない。
「大丈夫。明朝ではない。婚約者としてゆくのだから、白昼の元、堂々とゆけば良い。武を誇るヴァルハラが後ろ盾なら、ゼニウスも手出しはできまい」
エリスは一人で納得したように「うん、うん」と力強く頷いている。
――けれど、その声はもう、ルミナの耳には届いていなかった。
(お父様はわかっていないわ……。私は守られに行くのじゃない。猛獣の檻に、自ら飛び込みに行くのよ……!)
目の前に待ち受ける恐ろしい未来を想像し、ルミナはただ、己の無力さに唇を噛み締めることしかできなかった。
1章終わりです。
スマホを主に使っている為、長文の見直し・入力がしにくいなと、1ページ量は少なめ。
物足りなかったらすみません(-_-;)
なるべく、早めに更新していきますね!




