ep.01―4
(嘘、でしょう……?)
頭を殴られたような衝撃に、ルミナは言葉を失った。
父の命令だ。国を、民を守るための最善の策なのだと分かっている。だけど、従いたくなんてなかった。
――ゼニウスを訪れた際見た、戦争資料館の写真を思い出す。
カメラが普及したゼニウスの資料には、目を覆いたくなるような真実が残されていた。
緑豊かなこの島を戦火が覆い、木々は燃え、逃げ遅れた小鳥やウサギはその火の犠牲となり、横たわっていた。
写真だからか、いつも森で戯れている精霊の姿はどのを探しても一つもなかった。
そこには、この城の近くにある御神木の枝を切り削ぎ、痛めつけたのは、その当時のヴァルハラの国王だとも記されていた。
(そんな冷酷な人の血を受け継ぐ国に行けというの……? 助けを乞えというの……!?)
拒絶と恐怖で、ルミナの指先が小刻みに震え始めた。
「……不侵条約があるのに、領海のことで何やら言ってきたヴァルハラに、大おばあちゃんがしたことを、あの国は覚えてるでしょう。きっとひどい目に遭うわ」
かつて領海問題で小競り合いが起きた際、激怒した曾祖母が火の精霊の加護を借り、海を越えてヴァルハラの城壁を焼き尽くした。ヴァルハラが手を出してこなくなったのは、その恐怖があるからだ。
そんな国に、曾祖母そっくりの黒髪を持つ自分が乗り込めばどうなるか。復讐の生贄として、八つ裂きにされてもおかしくない。
「その心配はない。ヴァルハラの第二王子の婚約者として、向こうに行くことになっておるからな」
エリスは努めて感情を殺した声でサラリと答え、ルミナはそうと呟いてから、父を見開いた目で見つめる。




