ep.01―3
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ルミナの住む島から近い島は二つ。
一つは軍事国家・『ヴァルハラ』、そしてもう一つは、神の加護を受けている『ゼニウス』である。
知能の長けているゼニウス人が、他の民を捕獲するには何か理由がありそうではある。
だがしかし、ルミナにすれば"捕獲""大金"と聞いて身の危険を感じた。
「なんだって!?」
ルミナの話を聞いた国王・エリスは顎髭に手をやり、深く目を伏せた。
エリスはこの民を代表的な髪―茶色の癖のある髪―と、豊穣を司る大地の精霊の加護を持つ、新緑のような瞳の色をしている。
「……やはり、ゼニウスの動きが怪しいというのは本当だったか。実はルミナ、そんな噂を耳にしてから、宰相と共に『ヴァルハラ』と極秘裏に連絡を取り合っていたんだ」
「ヴァルハラに……っ!?」
ルミナは息を呑み、父の元へ一歩、詰め寄った。
(あんな……好戦的で、いつ不侵条約を破って攻めてくるかもわからない、野蛮な国に!?)
100年前の戦争の歴史が、ルミナの脳裏をよぎる。
"魔王"と恐れられたヴァルハラの王が、ゼニウスやこのアルカディアを壊滅寸前まで侵略した。神風が吹かなければ、この島はとっくに消滅していたはずなのだ。
(そんな国とまともに連絡なんて取れたのかしら……それにゼニウスの動きが怪しいってどう言うこと?)
三年前、交換留学生として初めてゼニウスの地を踏んだルミナだが、アルカディアほどではないが、緑と水のあるゼニウスは嫌な感じはしなかった。むしろ、暖かい日差しに神の気配を感じ、心地よい島国であった。
そのゼニウスが……と、水色の耳飾りを揺らしながらルミナは腕を組み、思考を巡らす。
「我が国は精霊の加護があるから、弱くはない。だが、ゼニウスのような文明の発達もなく、皆、平穏な日常を愛している温厚な人達だ。もし何かあってはこちらに大きな被害が出るだろう」
王の目の奥に、静かな、それでいて鋭い光があることにルミナは気がついた。
(なにか良くない事が起こりそうなのね……?)
「ルミナ、アルカディアで黒髪の少女と言ったら、お前しかいないだろう……」
「えぇ、そうね」
ルミナの体に緊張が走った。
捕まれば、どうなるかわからない。心臓が、耳の奥でうるさいほど早鐘を打つ。
「……ルミナ。何人でも良い、信頼できる侍女を連れて、今すぐヴァルハラへ向かいなさい。あそこなら、お前の身を守れる」
エリスは、娘の顔を見られぬように静かに目を閉じた。娘がどれほどヴァルハラを嫌っているかを知っているからこそ、その言葉は血を吐くような苦渋の決断だった。




