1-2:ルミナ、精霊の急報を聞く
「……はぁ……」
ルミナは肩を下げて、息を吐き切る。
(だからと言って、なげやりになってはいけないわ)
ルミナはふるふると髪を揺らし、首を振った。
(今日はもう休みましょ。明日、落ち着いてまた続きを読んでいたら、何かヒントがあるかも知れないわ)
パタンと本を閉じた時――
『大変なの!』
パタパタと羽をはためかせて、開いている窓から飛び込んできたのは、ルミナと仲の良い風の精霊・ウィンであった。
「どうしたの? ウィンったら、そんなに慌てて」
ルミナは目をパチクリさせた。
精霊が慌てているのを見るのは初めてであった。
『海をお散歩してたら、こっちに向かってるゼニウスの人間の乗った船があったのだけど、その人間が"黒髪の少女を捕縛するだけで、大金が手に入るだなんてな"って、言ってたの!』
「ふぅん? ゼニウスの人が……なんですって?!」
ルミナはこれ以上ないほど、目を丸くし、叫んだ。
(この島の黒髪の少女だなんて、私しかいないじゃない!)
ルミナは閉じた歴史書を、胸にぎゅっと抱き締めた。
傷を癒すことしかできない自分が大金になるとは思えない。だが、捕らえにくる人がいるとなれば、アルカディアの民にだって被害が出るかもしれない。
(私が原因で皆に……。私が大おばあ様のように強ければ、皆を守ることだって出来たのに……!)
奥歯を噛み締めた瞬間、悔しさと情けなさで、視界がじんわりと滲んだ。
自分が弱いせいで、家族や、いつも笑いかけてくれる民を危険に晒してしまうかもしれない。
守りたいのに、守られることしかできない。
その事実が、ルミナの胸を容赦なく引き裂いた。
「――お父様にお伝えしなきゃ……!」
涙を手の甲で手荒く拭い、ルミナは自室を飛び出した。
長い黒髪を振り乱しながら、冷たくなった足を必死に動かし、この国を治めている父の部屋へと駆け足で向かって行った。




