5-10 : 魔女の孫と言われても
ジークのように黒を基調とした服装だが、肩章も黒く、腰に刺さった剣はジークより大きい物であった。
「お久しぶりです」
ジークが腰を折って挨拶するのを見て、ルミナも慌てて腰を折る。
「あぁ、久しいな。三年ぶりか?」
声も腹から出ているのか、低く響く声であった。
「いえ、二年ぶりかと」
「相変わらず細かいな。そんなんでは嫁も来ないと思っていたが……」
ジークの後ろに視線を投げる。
「ルミナ。軍を束ねる最高幹部のヒューガ総帥だ。俺の上官でもある」
軍など全くない世界で育ったルミナだが、ヒューガが偉い人であることは分かった。
だが、かしこまった世界で育っていないルミナは、どう挨拶したら良いのか目検討も付かない。
「ア、アルカディア第一王女のルミナです」
そう言って、頭を下げるしか出来ない自分を恥じたが、どうすることも出来なかった。
「第一王女……つまりは、魔女の孫娘ということになるな」
ヒューガの一言にルミナはビク付き、頭を下げまま静止した。
会場は僅かにざわめき、静まり返った。
本当に魔女の孫なのか、皆、興味があるのだ。
「そうですね。アルカディアでは珍しく、彼女の髪は黒い」
ハーフアップに結われているルミナの髪の一束をジークは左手ですくう。
「我が城に焼き痕を付けた王女として文献に書かれている魔女の特徴のままですね」
そう言って、ジークはルミナの髪を離した。
「だが、この黒髪は我が国の民と同じ特徴。彼女だからこそ、馴染むかと。それに、この金色の瞳は、万物を照らす日の光と同じ。我が国を照らし、導いてくれるでしょう」
微笑を湛え、ジークがはっきりとそう言うと、会場に小さなざわめきが幾つも生じた。
ルミナは自分を肯定するジークに応えたかった。
小さく息を吐くと、背筋を伸ばしてヒューガの顔に、まっすぐ目を向けた。
「アルカディアは精霊の加護があると聞く。ルミナ殿下が精霊のように可愛らしい女性で良かったな。大事にするが良い」
ヒューガが微笑むことなどしなかったが、ルミナは嬉しい気持ちでいっぱいになった。
会場の方は、総帥の肯定的な態度にひそひそ話を止め、目くばせのみとなった。
「元より、そのつもりです」
ルミナが手を添えていた腕を彼女の腰を回す。
一気にルミナの顔が赤くなり、会場の女性を中心とした数名が青ざめた。
そのままジークは「それでは」とルミナを促して会場を後にした。
残された宰相を含めた上層部は今後ルミナに対してどうするのか秘かに騒ぎ、国王とギルベルトはわざと皆の前で腰に腕を回したジークの行動が意外であった為、黙って目を合わせた。
(あの肝の座り方はうちにもってこいだな)
ヒューガは、微笑んで金色の瞳をまっすぐに向けてきたルミナに感心していた。
一方、ルミナは(いつまでこの距離なの?!)と、自分の腰に腕を回しているジークに目の回る思いがするのであった。




