5-9 : 王女として、あなたの隣に立つ
それを見たジークは少しだけ、ふっと笑い、舞台袖の兵士に到着を告げた。
「第二王子ジーク殿下と、アルカディア第一王女ルミナ殿下、ご入場を――」
そう宰相の声が響き、舞台のカーテンが開く。
舞台袖が暗かったルミナは、会場の明るさに目を細めた。
ジークはそんなルミナを腕に、舞台の中央へと歩み出す。
会場の視線は全て二人に注がれた。
(みんな、見てる……)
ただ歩いているだけなのに、息が上がる。ルミナは心臓の鼓動がやけに大きく感じた。
「我が婚約者――ルミナだ」
会場の空気が張り詰める中、ジークがそう静かな声で言うと、視線は全てルミナに注がれた。
決して好意的な視線ではない。まるで針のむしろのようだった。
目を伏せ、俯いてお辞儀をすれば済む。
そう思ったのだが――
『その威勢の良さを忘れるな』
初日にジークが両頬を掴み、ルミナに放った言葉が脳裏を過った。
ルミナは振るえないよう、ジークの腕を掴む手に力を入れ、お辞儀してから、ゆっくりと視線を上げた。
幾つもの黒い瞳が値踏みするかのように自分を見ている。
(私は王女。ジークと肩書は対等な筈だわ)
いつも堂々としているジークを思い浮かべ、ルミナは金色の瞳でまっすく前を向いた。
勿論、王女らしく微笑むことも忘れなかった。
(上出来だな)
自分の腕をしっかりと握る彼女は、精いっぱいこちらに応えようとしているのだろう。
ルミナの堂々たる態度に唖然としている宰相を見て、ジークは笑いそうになった。
「アルカディア王家との縁は、我が国にとって大きな意味をもつ。この縁を大切にしようではないか」
宰相が言う筈の祝辞をジークは述べ、舞台下にいる彼を見た。
宰相はジークに促され、乾杯の音頭をとった。
「ルミナ、舞台からそのままここを出るのは目立つから、降りてからにしよう」
ルミナの耳に口を寄せ、ジークが囁く。
ジークの息が耳にかかり、こそがしい。ルミナは熱くなった耳を塞ぎたくなった。
彼に促されるまま舞台を降りる。
慣れないドレスの足元に気を付けていると、いつの間にか歩みを止めていたジークにぶつかりそうになった。
視線を上げると、黒髪が灰色へと変わった五十代後半の体の大きな男性の姿があった。




