5-8 : 離れるなと言われた距離
中々寝付けなかったルミナだったが、ジークが寝室に行く頃には眠りについていた。
ジークはルミナの寝顔を見ながら、慣れてしまった温もりにそっと手を伸ばし、彼も眠りについたのだった――
翌日の夕方、徹夜で完成させたと言うマリィのドレスを身に纏ってルミナは、会場に入る所へとシオンと共にやってきた。
そう、シオンと共に。
(忙しいのは分かるけど、これじゃあまるで、シオンさんが婚約者みたい)
ルミナは、はぁと溜息を吐き、まだジークの姿が見えないことを不安に感じた。
(ううん、いっそ、シオンさんが婚約者の方が良かったかも)
いつもの軍服と少し違って、胸元のヴァルハラの紋章に、銀の飾り紐が付いているのだが、これがいつも以上にシオンを凛々しく仕立てていた。
そんなシオンを、恰好良いと見つめていると背後から、コツコツと大股にこちらに向かってくる足音が聞こえてきた。
ルミナが振り向くと、黒地の礼装軍服に身を包んだジークが、歩きながら黒い手袋をはめていた。
右の肩章から銀の飾り紐が垂れ、シオンと同じ胸の紋章の飾り紐はそこへと続いていた。黒いマントは彼が歩く度に靡き、深い色合いの布地は彼の冷静な瞳とよく馴染んでいる。
「待たせたな」
手袋をはめ終わったジークが黒い瞳をルミナに向けた。
ジークは初めて会った時のような威圧感を纏っており、ルミナは黙って頷いた。
シオンに習った通り、ジークが差し出す腕に手を添える。
ジークは横目で、シオンが一礼して下がったのを見届けると歩みを緩めた。
「……今日はいろんな奴らが来ている。ルミナを良く思っていない奴らが大半だ」
ルミナはビクッと、ジークを見上げる。彼は舞台へと続いている道をまっすぐに見つめていた。
「だから、俺から離れるな」
チラリと自分を見下ろすジークの目にいつもの優しさはなかったが、ルミナはキュッと唇を結び、頷いた。




