5-7 : 期待して、傷ついて、また惹かれて
寝室の前に立っていた護衛に、ジークの部屋まで案内させたルミナは、あの獣の描かれ扉の前で足を止めた。
その絵を見上げたが、最初と違い、怖くはなかった。
コンコンッ
以前、ユーリがしたように扉をノックする。
ルミナはそっと扉を開けた。思ったほど扉は重たくはなかった。
「ジーク?」
机の上のランプだけが明かりとなっており、部屋は薄暗かった。
「ルミナ?」
扉から少し顔を覗かせているルミナに、ジークは手を止めた。
「どうした?」
「えっと……ジークがいなかったから……」
躊躇いながらも、ルミナは部屋に入ると、そうもじもじと言った。
「なんだ、そんなことか」
ジークは手元の書類に目を落とした。
(そんなこと?!)
あっけなくそう言われて、ルミナはむっとした。
(ジークが私を女扱いしてるってことは……って、期待した私がバカだった!)
「目が覚めたら誰もいなかった私の身にもなって頂戴!」
ルミナは腕を組み、フイッと顔を背ける。
「それは悪かった。ここを明後日には出発する事が決まった。君には明朝伝えよと思っていたのだが……」
ゼニウスより交換留学を快諾する返事が日暮れ前に届いた。
そこには、ルミナと共にゼニウスに訪れ、向こうの王子と挨拶してから、交換留学とする旨が書かれていた。
「そんなに早く出発するの?!」
ルミナは目を丸くする。
「俺も驚いた」
(協議されなかったんじゃないのか?)
ジークが交換留学の案を出した後に、国王は宰相達と意見を交わしたゼニウスへ手紙を出している。ヴァルハラではそれが普通であり、この早さを異常に感じた。
「出発までに済ませたい仕事があるから、ルミナは先に寝ていて構わない」
ジークは顔を上げ、務めて優しくルミナに声を掛けた。
「……分かったわ。ジークには、しなくてはいけないことがあるものね」
王子なのだから職務があるのだと、ルミナは自分に言い聞かせ、淋しい気持ちにならないよう自分を叱咤した。
「あぁ。部屋までちゃんと送ってもらえよ」
「うん。お休みなさい」
少し淋しそうな笑顔を浮かべ、ルミナは扉に手を掛ける。
「お休み」
ジークがそう返事をすると、手を振ってルミナは退出した。
「……はぁ」
ジークはペンを置いた。
(少し距離を置いたほうが良いと思っていたのだが……)
自分の方こそルミナが側にいないと寝つけないのでは?と、思ってしまった。
(慣れとは恐ろしいものだな……)
◇
一方、寝室に戻ったルミナも(たった五日しか経ってないのに、大きなベッドで一人、寝れる気がしない!)と、布団の上を転がっていた。
(もう、ジークのバカ!)
ルミナは布団を抱き締める。
そう思うのに『部屋までちゃんと送ってもらえよ』と言ってジークの声を脳内で反芻してしまっている。
自分を気にかけてくれるジークの言動に、尚更ルミナは寝付けなかった。




