4-17 : 少し、淋しいな……
「良いか? 俺は君から離れないし、絶対に君を守る。それに何かあっても、君は防壁を張れる。ゼニウスはここよりアルカディアに近いから、海に入ってしまえば君のものだ」
そう言うと、ジークはルミナの頬を解放した。
「……何かって?」
ジークに解放された頬をさする。
「万が一、俺が向こうで刀を抜くことがあったら、その時だ」
ジークは表情一つ変えない。
「つまり、そうなったら私に逃げろって言ってるのよね? だったら――」
「君がここにいる状態で、向こうの王子が来るだなんて、あっちの思うツボになるようなことは避けたい」
ルミナの言葉をジークが遮る。
「もっと言うなら、君が作る防壁を盾に無理やりにでも、今回の中心人物を斬ってしまいたい」
ジークは真剣だった。
ルミナの父に手紙でゼニウス王について尋ねたが、のほほんとしており、とても王がルミナを捕えようとしているとは考えにくいと返事がきていた。
アルカディアの王に寄せて、平穏そうに偽っているなら一概に首謀者ではいと言い切れないが、そうじゃないとジークは睨んでいる。
「やっぱり、ヴァルハラの民は野蛮だわ」
”斬る”の一言に、ルミナがジークを睨む。
「斬るのが目的ではない。真相を知るのが目的だ。今回のことが、アルカディアにも我が国にも被害がないようなら、勿論、けが人等出すつもりはない」
ジークは言葉を選んだ。
「君も王女なら、国を守りたい気持ちがあるだろう?」
「勿論じゃない!」
思わすルミナは膝立ちになって、ジークを見下ろす。
「なら、悪くない話だろ? それとも、ここで相手の思うように動くか?」
ジークは片膝を立てそこに肘を置くと、ルミナを見上げた。
「……本当に、けが人を出すつもりはないのよね?」
指を顔に向け、念を押す。
「あぁ。それとも君は、俺が意味なく刀を振るう奴だと?」
ぐっとルミナは押し黙った。
数日過ごしただけだが、無暗に人を傷つけるようには思えなかった。
「分かったわ。一緒に、ゼニウスに行くわ」
ストンと、ルミナはベッドに腰を下し、ジークに挑むような目を向けた。
(ルミナならそう言うと思った)
ジークはふっと微笑むと、ルミナが抱きかかえていた絵本を手に取った。
「今日はもう遅い。明日に備えて寝ないか?」
「分かったわ……明日、ジークは……」
アルカディアと違いこの国では暇を弄んでしまう。かと言って、でしゃばるのも躊躇われた。
「ん?」
ベッドサイドテーブルに絵本を置いたジークがルミナに目を向ける。
「な、なんでもないわ」
子供みたいに淋しがるなんてどうかしてると、ルミナは寝るためにジークが留めたピンを外そうと、それを見た。
「綺麗……」
丸く削られた琥珀の濃淡は自然が織りなす美しさを持っている。ルミナはその美しさに目を奪われた。
「気に入ったか?」
「うん」
ピンを外して、ルミナは掌にのせた。
ハチミツ色の琥珀の中に、こげ茶の波のような模様がある。
(不思議な石……)
アルカディアにはない石を堪能したルミナは、ジークに返そうとした。
「いや、良い。それは君が持っていてくれて構わない」
どこか懐かしそうにジークは目を細め、ルミナの手にそれを握らせた。
「ゼニウスに行く、迷惑料だと思ってくれ」
微笑を浮かべたジークに言われ、ルミナは黙って頷く。
「おやすみ、ルミナ」
ルミナが、ルミナ側のサイドテーブルにピンを置くのを見届けたジークがランプを消す。
「おやすみなさい、ジーク」
ジークが持ってきた布もテーブルに置き、ルミナは布団に入った。
(別に良いのだけど、ジークっていつも寝る時は私に背を向けるよね)
敵視していなと言いたいのかしらと、ルミナはその背に思う。
(少し、淋しいな……)
顔の近くの布団をぎゅっと掴む。




